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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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今では彼は、僕にとっての神様じゃない。


「その足じゃ不便だろう」

そう言って彼は僕に新しい銀色の足をくれた。
右足と違ってただの棒だけど、慣れれば歩くことも、走ることもできるようになった。
だから、その時の彼は僕にとって神様だった。
背が高くて、いつも綺麗で、強い神様だった。

彼と同じような姿で、同じような服を着た大きい男の人は、大抵僕を殴った。
けれど、彼だけは違った。
僕に足をくれて、その大きい男の人達から逃がしてくれた。

その神様が連れ出してくれた家には、僕と同じくらいの子供がたくさんいた。
でも僕はここでもいじめられた。
ご飯に砂を入れられて、足を蹴られて、仲間外れにされた。


僕は神様に、泣いてお願いした。
「また、助けて」って。
「一緒に連れて行って」って。


神様は、今度は助けてくれなかった。
本当に時々現れる以外は、その家には現れなかった。
僕は神様に捨てられたんだと思って、絶望した。



何年か経って、僕は誰とも話さなくなって独りでいることが増えた。
一人で、神様が教えてくれた歌を歌ってばかりいた。

仕事もあまりしないでいたから、もう誰も寄り付かない厄介者になっていた。
そんな僕にまた神様は話しかけてくれた。
僕はもう、彼に笑って飛びついたりはしなかった。
そうしてただ歌いながら見上げただけの僕を、彼はじっと見てくるだけだった。


「一緒に来るか」

神様が意外なことを言ってくるから、びっくりしてしまった。


「ただし、条件がある」

歌うのをやめて、じっと神様を見上げていた。
昔のような緑色の服ではなくて、灰色の不思議な形の服を着ていた。

「お前が物乞いのように俺に助けを求めるなら、俺は遠慮なくお前を殴って突き放すだろう。
だがお前が自分の力で生きたい、その足で立ちたいというなら、俺は手を貸してやる。」


僕によくわかるように、何度も、ゆっくりとそれを説いてくれた。
ちゃんとこの言葉を分かって、守れるなら連れて行ってくれると神様は言う。

いや、神様じゃなかった。
彼の言葉を理解する程に「彼は初めから神様じゃなかったんだ」って気づいた。

僕の力ではどうしようもない所からは救ってくれた。

でもその先、自分で歩く道は何もしてくれない。
じゃないと、僕はどんどん駄目になって何もできない人間になってしまうから。
だから僕を捨てていった。
そして今、また救いに来てくれた。




「わかった…今度こそ、がんばるから…」


僕は、やっと彼の手をとって、彼と一緒に進むことを選んだ。
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じゃあね…少しお話をするね。

先に言っておくけど、面白くないよ。
僕は人に話すなんてしたことがないからね。
本当は、絵や歌にしたかった。
けどこんな身体だろ?

絵を描く道具もなければそもそも腕もない。
曲を奏でる楽器がなければ歌い方もしらない。
それでも付き合ってくれるの?

ありがとう、貴方は優しいね。
こんな姿になった僕に優しくしてくれる人なんて久しぶりだな…

みんなね、酷いことをして笑うんだ。
あの人たちと貴方の笑みはこんなに違う…どうして?
なんで貴方はこんなに温かいの?触れられるのが気持ちいいの?
何を食べたらそんな優しくなれるの?
何を見たらそんな優しくなれるの?

…あ、ごめん、僕が話すはずだったのに、質問ばかりになっちゃった。
でもよかったら、聞かせてね。

あ、でも1つだけ聞かせて。
僕の物語に貴方が侵されて、みんなみたいになってしまうなんてことはない?
貴方も僕のようになってしまうなんてことはない?
あの人たちみたいになってしまうなんてことはない…?

ああもう、1つって言ったのにね。
信じてくれなくてもいいから、聞いてね。
でもどうか、貴方には信じて欲しいな。




木の天井
もう木の形をせず木目しか面影を残さない筈なのに
それはまだ生きていたのか

実を実らせた
たくさん、たくさん実らせた
けれどせまい天井にその実は入りきらず、ぎゅうぎゅうになっていて

僕もその実のひとつ

狭い天井の中で
このままでは実は全てお互いを潰してよく育たない

あの人たちは間引いた
実を、大きな実を間引いた
醜い実を間引いた

けれど実はいつのまにか実り
そして大きくなっていく

実は天井から追い出されるとき、悲しい声をあげた
赤い汁を滴らせて
天井から外されてどこかへもっていかれる
ちゃんと誰かに食べてもらえたのかな

ときどきあの人たちは味見して、また実を天井に戻す
それでも実は悲しい声をあげていた

僕にはいつも隣にいた実がいたんだ
綺麗だったと思う
みんなもあの人たちもそう言っていた

でもなぜかある日、その実はもがれた
多分間引きじゃなくて収穫
それくらい綺麗だったんだ

僕も隣にいたから、まだ小さいのにいっしょにもがれた
僕は捨てられるのかと思ったら、違ったみたい
だって赤い汁を出して潰されることはなかったから


天井から取られて持っていかれた先は暗かった
あの天井も暗かったけど
でも広かった
歩けないようなところじゃなかった

そこでは何をされてたのかよくわからない
実に何かを入れていたんだ
みんなが「たべる」って言ってたけど
僕のしってる「たべる」ということとは違ってたんだ

実に、あの人たちはくっついてくる
それで実に身体を刺し込むんだ
遊んでるように見えた

僕たちには赤い汁が入ってるのに、何故か白いのを入れてくるんだ
それで何かが変わるのかな

たくさん、たくさん入れられた
このへんがすごく痛くて痛くて、こっちのほうも痛かった

あるときね、そこにいっしょにいた実がちょっと変わったんだ
ぽっこりふくれてきた

そうしたら、潰されたんだ
中はやっぱり赤い汁だったよ、じゃああの白い汁はなんだったんだろう
たぶんぽっこりふくれたのはあれのせいだよね

だから僕もぽっこりふくれたら、潰されて食べられるのかなって
そのために僕たちという実は生ったんだって思った




ふふ、子供の発想って凄いでしょう。
今はもう、あれはなんだったのかよく分かってるよ。
あと、僕はふくれることはないっていうのも分かってる。

潰されて、食べられることはあるのかもしれないけど。

…?
どうしたの?
触っていていいよ。

だって貴方もそれを刺しに来たんでしょう?
それで僕の中に白い汁を出したいんでしょう?
僕はそのための実なんだから。

本当に“実”だと思ってるのかって…?

うーん…半分本気、半分嘘。
そのほうが言いやすいし、僕自身の呼び名なんて分からない。
名前もないし、人と言えるのかもわからない。

…ほら、言えないでしょう?
人ならあの人たちや貴方とこんなにも姿も立場も違う理由が説明できない。
誰も僕を人として扱えないし、人にすることもできない。

ああ、でもそんな顔をしないで。
さっきみたいに笑ってて…?
こうやって優しくしてくれる人、初めてなんだ。
話せる人も、初めて。

だから貴方に刺してもらいたいな。
いつも痛くて苦しいけど、貴方ならいい気がする。

ねえ、たくさん刺して、たくさん出していいから。
もっとたくさん話がしたいな。
ああ、貴方の話が聞きたい。
さっきの質問の答えも欲しい。

もう、誰も触ってくれなくなったんだ。
傷がたくさんついちゃったし大きくなっちゃったから…

きっと僕はもうすぐ潰される。
赤い汁をたくさん出して…

誰か、飲んでくれるのかな、食べてくれるのかな…
それだったら素敵なのに
でもきっと不味いから誰も食べてくれないだろうな…

ああ…せめて貴方に潰してほしいな…
食べてなんて言わないから
優しく潰して欲しい

皆が潰されたときみたいに、悲しい声はあげたくない。
わがままかもしれないけど、そうなれたら僕は幸せ。




ああ………そっか。

そのためにきて、くれてたんだね…
なら早く摘んでよ。
僕は幸せだから。

…え、食べてくれるの?

ありがとう。
不味かったら、ごめんね…?
喜劇は何処にでもある

悲劇もまた然り


それは目に見えない所にあるのかもしれないし
目にしているのに気付かぬこともあるだろう。


「……ジュノー…」

ぼんやりと昨日の新聞に目を通していて、何やらごちゃごちゃした写真と『ジュノー』という町名に目を引かれた。

たしか“あいつ”の出身だったな。

「…何か面白い記事でもあったか」

まるでセンサーでもついているかのように、一瞬頭に思い描いた騎士が実際に目の前に現れた。

「…ジュノーにあると噂された“旧・生体研究所”らしき施設を発見、検挙。」

それだけ言って誌面を相手に押し付ける。
見ていて気分のいい記事ではなかった、そんなものを朝刊にいれるなと思う。

「薬物、拘束、解剖…はぁ~イカれてるな。」

まるで他人事のように。
写真に映っている男に気付かなかったわけではあるまい。
長年その研究所に閉じ込められたままで、先日救出されたという被害者。

印刷のせいもあるだろうが、どこか雰囲気がこの騎士に似ていることに。

ジュノーにいた頃、定期的に「何処かの研究所」に採血されていたとこの男はいう。
それがこの施設だというならば、一歩間違えばこの写真に写っていた彼は自身だったかもしれないというのに。
もしくは隣の写真にある黒い肉塊や死体や骨だったかもしれない。

それに、この写真の男と無関係ではないかもしれない…

「お前と、一緒に暮らして、狩りして、闘って、飯食って、話して…」

新聞はテーブルに放られ、後ろから手が伸びてきて首を絞めるように抱きしめられる。

「そんだけが俺の全てだ。外のどこかの出来事なんざどーでもいい」
「…この引きこもりが」

皮肉を言うと、笑う気配があって後から耳に強く歯が立てられた。

怯えたようにカメラを見つめて写真に写ったように思っていた男の瞳が、今度はこちらを恨めしげに睨んでいるように見えた。



悪いな、俺もあんたのことはどうでもいい。


写真に向かって呟き、抱きしめてくる相手に身を任せてため息をついた。
『君はまた…全く、いい加減にしなさい。』
『そろそろ上納解けよなぁ…』
『アンタさあ、なんの為に冒険者やってんのよ』

冒険するから冒険者って言うんじゃねーの?
そう言い返したら、回りは呆れた顔ばかりする。

『屁理屈よ、そんなの』
『冒険したいならレベル上げてからにしろよ』
『うんうん、その方が行ける場所も多くなるしねえ?』

何度も何度も、俺に強くなることを迫る。
俺をギルドに受け入れる時「人それぞれペースはあるよね」とか言って笑ってたのに。
やっぱり強くなることを強いるんだ。

「しつこい。俺の勝手だろ!」


そう言ってギルドを飛び出した。
決断まで時間は掛からなかった、ぶっちゃけ始めからこうなるって予想できたし。
そんな風に入っては抜けて入っては抜けてを繰り返すのも、もう何度めだろう。
それでもやっぱり、狩りを…というより、強くなることを強要されるのは嫌だった。

俺はただ、世界を見たかった。
世界中を旅したかっただけなんだ。

「…ウィンリーっつったっけ。じゃあ何でギルドに入ってるん?」

矢を仕入れてくれるブラックスミスの姉さんがいて、ずっと買いに言ってるうちにお得意さんになった。
お陰でこの人のとこに行けばいつでも矢が安く手に入る。
まあ、それを狙って一カ所で買ってたんだけどな。
美人だったし巨乳だし。

「ギルド狩りについてけば弱くてもダンジョンとか潜れるし。あ、あと上納でレベル上がるの押さえられるし。」
「成る程」

ニッコリ笑ってブラックスミスさんは何かを渡してきた。
………ギルドエンブレム。

「上納させてやるしギルド狩りとかもやってやるからさ、頼みがあるんだ。」
「頼み?」

そのブラックスミスはニッと白い歯を見せて笑った。
目が離せなくなったのは美人だったからなのもあるが、それだけじゃない。

この人は裏切らない、そう思えたから。




『ヒショウさーん。アマツの桜もうないけど、イイ感じの宿が刺身とかを安く出してましたよー。なんかこの春は大漁らしいっす』

『………。』
『ちょっ!こらウィンリー!今はその情報いらないー!今せっかくコモドのリゾート件ラブホテルに』
『ありがとう早速アマツに行く。宿の名前教えてくれ。』

邪魔しちまったか。
ま、いいや。
どーせ何処行っても二人仲良くやるんだろうし。

『レイヴァさーん』
『む』
『今ジュノーにいるんだけど、ホテルのスイート空いてるみたいっすよー』
『予約を頼む』

レイヴァさんのその言葉で、ギルドチャット内がわたわたした。

『ちょっ!レイヴァ!?何なに、誰と泊まりに行くの!?彼女!?』
『おかたい顔して、やるぅ~っ』
『えーっと、ひょっとしてシスター・ウラルカとか…?』

たいてい、こうゆうので食いついてくるのって、ルナティスさんとマナさんとセイヤだよなぁ。

『……接待だ。』

レイヴァさんからの返答は、それはそれで反響を呼んだ。
たしかに、あの鉄仮面で人をもてなすとか考えられねーしな。

『じゃ、シングルでいいっすか。何部屋?』
『3だ。』
『了解でーす。』

俺は場違いなくらい上品なホテルに、狩り用の薄汚れた服で入って行って受け付け前に立った。
案の定、心底怪訝な顔をされた。

「シングル3部屋を2泊、明日からの予約でお願いします。あ、領収書もお願いします。」

あんま長居はしたくなくて、それだけまとめて言った。
受け付けのお姉さんはニッコリ笑って会計を済ませて領収書の小さい紙にペンをはしらせた。

「宛名書きはどうなさいますか?」


「ギルド:インビシブルで。」



ウィンリー
ギルド:インビシブル
職位:ウィンリー旅行代理店

一瞬、目に入り気にかかったが、何故気にかかったかも分からなかったから視線を外した。
視線を戻した先では何故かレイヴァとルナティスが腕相撲をしている。
確かルナティスが腕相撲したいと言い出したが彼に叶うのはレイヴァくらいしかいない、よって仕方なくレイヴァが承諾して勝負が始まるところだ。

二人が押したり押されたりの攻防を繰り返していると、背後に人が寄ってきた気配を感じた。
振り返ると、先ほど一瞬だけ気になって視線を止めたハンターの女性だった。
彼女はまだ声も掛けていないのにヒショウを見て「やっぱり」と言いながら笑顔を浮かべた。

「私のこと、覚えてる?」

安っぽい軟派に使われそうなことを言って彼女は親しげにヒショウの顔を覗き込む。
メンバーは何事かと困惑しているが、1番困惑しているのはヒショウ自身だ。
覚えがない。
視線で「わからない」と告げながら、彼女を頭から足まで眺めてみた。
冒険者には珍しく化粧をしてアクセサリーをあしらい、筋肉より滑らかさが目立つスタイル。
細くくびれた腰には薔薇が絡んだ髑髏の入れ墨が佇む。
それを見て、思い出した。

「…思い出した。」

ヒショウはそう言うが、別に嬉しそうではなくかと言って嫌そうでもない。
友人にしては親しさはなく挨拶もない。
女性も親しげなのは言葉だけで態度はどこか他人行儀だ。

「お久しぶり、覚えてもらえてたなんてうれしいわ。」
「……。」

返す言葉に困っているヒショウを見て、彼女は笑いながら「相変わらずつれないわね」と呟く。
ハンターは視線を一瞬テーブルを囲む面々に向けたが、ヒショウのギルドメンバーと知りながら挨拶も無しにヒショウと近い距離で話す。

「ねえ、私最近ソロでつまらないのよ、よかったら今日か明日狩りにでも付き合ってくれない?場所はどこでもいいから。」
「生憎だが、もう相方がいる。」
ヒショウが即座に短くそう告げると、彼女は笑顔を削ぎ落として不機嫌そうに歪めた。

「ああ、そうゆうことね。わかった、また会った時退屈してたら付き合うわ。じゃあね」

彼女はそう言ってあっさりと背を向けた。

「……あの方は」

メルフィリアは独り言のように疑問を口にした。
それにヒショウが答えぬうちにマナが不機嫌そうにため息をついた。

「オイコラ、あの女が去り際に私の事に睨んだぞ。変な勘違いさせてんなよ。どーせ元カノだろ、一言弁解しろよ。」
「…別に、だからって手を出してくる程熱の入った女じゃない。」

ヒショウがばつが悪そうにしているのは、今はルナティスという恋人がいるからか、それとも余り人に自慢したくなるような女性ではなかったからか。

「…随分、ヒショウの好みから外れた人だね。」

恋人である自分のことを棚に上げて、意外にもルナティスがあの女性の話題に突っ込んでくる。
表向きはただ仲間の昔の事情を掘り起こして聞き出そうとしている野次馬のような雰囲気だが、下手をしたらヒショウとルナティスの間に何か問題が起きそうな危うさがある。

現在の恋人としては、昔の恋人の存在は気になると同時に不安を煽るものだろう。

「…お互い、本気じゃなかったからな。」

ヒショウは言いにくそうに眉をしかめるが、はぐらかしたりするとルナティスを不安にさせるだろうと事実を告げる。

「でも別に、狩りくらい付き合ってあげればいいんじゃないですか。ヒショウさんが浮気するなんて思ってませんよね、ルナティスさん?」
「浮気しないのは分かってるけど、さっきのあれ、つまりは誘ってたんじゃないの?」

白昼堂々のそんな発言に、一帯の空気が固まった。
どう聞いても普通の会話だったろうになんて解釈してるんだ、と皆が思ったが、ヒショウが否定しないのも気になった。

「ど、どう聞けばそうなるんですか?」
「だってーただの狩り仲間にしては距離が近いし元恋人にしては二人ともよそよそしいし、ヒショウが誘いを遠慮なくばっさり断るし。ていうか相方がいても狩りくらい付き合うでしょ、なのに向こうもあっさり諦めてたから。相方って恋人の代名詞だったんじゃないの?何よりヒショウってあーゆーあから様にフェロモン出してる女の人嫌いでしょ。あと貧乳の方が」
「そろそろ余計だ。」

要らない考察まで持ち出し始めてきたルナティスの頭にヒショウの平手打ちが入る。

「つまりはセフレかよー」

マナのあまりにストレートな言い方に、動揺した。
結構人前での発言に慎みがないのはマナとルナティスの似たところだ。

「……っ……ま、あ…そうなる、か…」
代わりにいい言葉が見つからず、ヒショウはしぶしぶ頷く。

「だよな。腹のあたり見て思い出してたし。」
「……。」
「ヒショウにも、そうゆう時があったんだなー。」
「…若気の至りだ。」
「男なら当然だろ。で、あの女の人のどこがよかったの?」

ルナティスを横目に盗み見ても、その顔に不機嫌さは見つけられない。
純粋に気になっているように見える。

「…どこも」
「……惚気?」

自分の発言は「あの女性の全てが好きだった」と捉えられたらしい。
慌てて首を振って否定した。

「どこも、好きなところがなかったから付き合った。お互い、本気になるつもりはなかったから。」
「ま、ちゃんとそーやって先のこと考えてるのはいいけどな?」

何かいいたげに口を出したマナはそこで言葉を濁した。
元から冷めていて熱くなる間もなかった相手だとしても、ルナティスは面白いはずがない。

ルナティスと腕相撲の姿勢のままでいるレイヴァが、勝負もしていないのにずっと腕を震わせている。
話している最中もルナティスがずっと強く握ってきているから、痛くないように対抗して握り返しているのだろう。
ヒショウはそんなルナティスの内面の怒りに気付かないが、知らなくて正解だ。



『………マナ、僕があの女の人殴りに行ったら止める?』

ルナティスとマナの互い間でしか聞こえない声で、そんな物騒な会話が成されていたとはその場の誰も思わなかった。

『止めて欲しいから聞いてんだろ?』
『まあねー』

勿論、未遂に終わったが
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