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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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じゃあね…少しお話をするね。

先に言っておくけど、面白くないよ。
僕は人に話すなんてしたことがないからね。
本当は、絵や歌にしたかった。
けどこんな身体だろ?

絵を描く道具もなければそもそも腕もない。
曲を奏でる楽器がなければ歌い方もしらない。
それでも付き合ってくれるの?

ありがとう、貴方は優しいね。
こんな姿になった僕に優しくしてくれる人なんて久しぶりだな…

みんなね、酷いことをして笑うんだ。
あの人たちと貴方の笑みはこんなに違う…どうして?
なんで貴方はこんなに温かいの?触れられるのが気持ちいいの?
何を食べたらそんな優しくなれるの?
何を見たらそんな優しくなれるの?

…あ、ごめん、僕が話すはずだったのに、質問ばかりになっちゃった。
でもよかったら、聞かせてね。

あ、でも1つだけ聞かせて。
僕の物語に貴方が侵されて、みんなみたいになってしまうなんてことはない?
貴方も僕のようになってしまうなんてことはない?
あの人たちみたいになってしまうなんてことはない…?

ああもう、1つって言ったのにね。
信じてくれなくてもいいから、聞いてね。
でもどうか、貴方には信じて欲しいな。




木の天井
もう木の形をせず木目しか面影を残さない筈なのに
それはまだ生きていたのか

実を実らせた
たくさん、たくさん実らせた
けれどせまい天井にその実は入りきらず、ぎゅうぎゅうになっていて

僕もその実のひとつ

狭い天井の中で
このままでは実は全てお互いを潰してよく育たない

あの人たちは間引いた
実を、大きな実を間引いた
醜い実を間引いた

けれど実はいつのまにか実り
そして大きくなっていく

実は天井から追い出されるとき、悲しい声をあげた
赤い汁を滴らせて
天井から外されてどこかへもっていかれる
ちゃんと誰かに食べてもらえたのかな

ときどきあの人たちは味見して、また実を天井に戻す
それでも実は悲しい声をあげていた

僕にはいつも隣にいた実がいたんだ
綺麗だったと思う
みんなもあの人たちもそう言っていた

でもなぜかある日、その実はもがれた
多分間引きじゃなくて収穫
それくらい綺麗だったんだ

僕も隣にいたから、まだ小さいのにいっしょにもがれた
僕は捨てられるのかと思ったら、違ったみたい
だって赤い汁を出して潰されることはなかったから


天井から取られて持っていかれた先は暗かった
あの天井も暗かったけど
でも広かった
歩けないようなところじゃなかった

そこでは何をされてたのかよくわからない
実に何かを入れていたんだ
みんなが「たべる」って言ってたけど
僕のしってる「たべる」ということとは違ってたんだ

実に、あの人たちはくっついてくる
それで実に身体を刺し込むんだ
遊んでるように見えた

僕たちには赤い汁が入ってるのに、何故か白いのを入れてくるんだ
それで何かが変わるのかな

たくさん、たくさん入れられた
このへんがすごく痛くて痛くて、こっちのほうも痛かった

あるときね、そこにいっしょにいた実がちょっと変わったんだ
ぽっこりふくれてきた

そうしたら、潰されたんだ
中はやっぱり赤い汁だったよ、じゃああの白い汁はなんだったんだろう
たぶんぽっこりふくれたのはあれのせいだよね

だから僕もぽっこりふくれたら、潰されて食べられるのかなって
そのために僕たちという実は生ったんだって思った




ふふ、子供の発想って凄いでしょう。
今はもう、あれはなんだったのかよく分かってるよ。
あと、僕はふくれることはないっていうのも分かってる。

潰されて、食べられることはあるのかもしれないけど。

…?
どうしたの?
触っていていいよ。

だって貴方もそれを刺しに来たんでしょう?
それで僕の中に白い汁を出したいんでしょう?
僕はそのための実なんだから。

本当に“実”だと思ってるのかって…?

うーん…半分本気、半分嘘。
そのほうが言いやすいし、僕自身の呼び名なんて分からない。
名前もないし、人と言えるのかもわからない。

…ほら、言えないでしょう?
人ならあの人たちや貴方とこんなにも姿も立場も違う理由が説明できない。
誰も僕を人として扱えないし、人にすることもできない。

ああ、でもそんな顔をしないで。
さっきみたいに笑ってて…?
こうやって優しくしてくれる人、初めてなんだ。
話せる人も、初めて。

だから貴方に刺してもらいたいな。
いつも痛くて苦しいけど、貴方ならいい気がする。

ねえ、たくさん刺して、たくさん出していいから。
もっとたくさん話がしたいな。
ああ、貴方の話が聞きたい。
さっきの質問の答えも欲しい。

もう、誰も触ってくれなくなったんだ。
傷がたくさんついちゃったし大きくなっちゃったから…

きっと僕はもうすぐ潰される。
赤い汁をたくさん出して…

誰か、飲んでくれるのかな、食べてくれるのかな…
それだったら素敵なのに
でもきっと不味いから誰も食べてくれないだろうな…

ああ…せめて貴方に潰してほしいな…
食べてなんて言わないから
優しく潰して欲しい

皆が潰されたときみたいに、悲しい声はあげたくない。
わがままかもしれないけど、そうなれたら僕は幸せ。




ああ………そっか。

そのためにきて、くれてたんだね…
なら早く摘んでよ。
僕は幸せだから。

…え、食べてくれるの?

ありがとう。
不味かったら、ごめんね…?
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