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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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気まぐれだった。
彼を傷付けるつもりはなかった。
口付けはよくしていたが、それは挨拶程度の話。

常日頃から、もっと情熱的な口付けを彼にしたいと思っていた。

無垢な彼はどんな反応をするだろう。
きっと思い悩んでしまう。
でも私を嫌いにはならないだろう。
何故なら私はいつでも狂おしい程に彼を愛しく思っているから。

そんな甘い考えから。

「―――…っ」
訳がわからぬうちに彼は口内へ舌の侵入を許してしまった。
と舌を絡める直前に…
私は気付いてしまった。

息を呑んだのは私か。
それとも彼か。



「っ!」
大きめの綺麗な紫の瞳に浮かんでいたのは熱でも怒りでもない。
酷く悲しそうな。

私より表情に出ていないが、心の中は私よりずっと傷付いた。

「ジノ…っ…」
彼は私を突き飛ばして部屋から出ていった。
彼を止める声は酷く弱々しかった。


―――――――


必死に隠していたわけじゃない。
ただ、知られたら憐れまれるだろうとは思った。
グローリィは優しいから。
でも、どうせ早々見つかることじゃないから問題ないだろうと楽観視してた。
いざ知れたら、思ったよりも――悲しかった。


俺は半分近く歯ない。
一度仕事に失敗しかけて、拷問にあった時に折られた。
同業者には戦闘で折れたという奴は多いが、拷問で折られた奴はほとんどそのまま息の根も止められている。
俺は運がよかった。

彼に汚いものに触れさせてしまった。
嫌われただろうか。

……悲しかったが、気にしていないふりをすればよかっただろうか。
そうすれば彼も気にしないでいてくれただろうか。

『ジノ』
「…っ」
突然の当人からのWISに戸惑う。

『今まで気付かなくてごめんね。』
何で謝るんだ…俺が勝手に隠してただけで…
『グローリィのせいじゃ…』
『私の料理って固いのが多かったから食べにくかったでしょう。』

返事につまった。
『だからいつも苦しそうに食べてたんですね。今度からもっと柔らかくするように心掛けます。』

いや、それは本当に苦しかったから。
料理の固さがどうこうではなくて、料理そのものが苦痛だった。

『あ、ちなみにその点については謝りますが、キスしたことについては謝りませんよ。』



遅れて、唇から口内にまで残った彼の感覚を思い出す。
「…っ!!!!」
一気に顔に血が上って、なにもかもを忘れ、その場に座り込んだ。


忘れたせいで、料理のことを弁解し忘れた。
その日の夕食はいつもより…………地獄だった。
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プロンテラの南大通りは冒険者が開く露店で大いに賑わっている。
騒がしいが煩くはない。少し脇の通りを行った市場とは違い、旅や戦闘の必需品は呼び込みしたからといって売れ行きが延びるものでもない。
声をかけずとも通り過ぎる冒険者は皆それなりに買う目的のものがあるのだから、来る客は来るし、来ない客は来ない。
売り手はただ品物を並べ看板を出して番する長期戦だ。

しかし中にはレアなものより日用品を並べ趣味のような露店をする者もいる。
品物の査定や買い取り、もしくは武器製造の依頼を目的としていることもあるが
「おはよう、今ミルクの気まぐれタイムセールやっているんだ。いくつかどうだい?
え、スピポがよかった?
おっけーおっけー、じゃあ今からハイスピのタイムセールにしてあげよう。」
露店の並びにシートを広げて商品を並べるそのブラックスミスは、露店そのものは遊びと思っているタイプのようだ。

続々とさばかれていく商品を一度綺麗に整理して、満足気に頷いた。
「んーで、いつまで辛気臭い顔して居座ってんだいチェリーボーイ。」
「誰がチェリーボーイだ殴るぞ。」
ため息尽きながら声をかけた商売人の隣でしゃがみ込んで邪魔しているくせに毒づくのは辛気臭いバードだ。
いかにも悩んでますといいたげに体育座りして顔を膝に埋めている。

バードとは時代や俗世を唄う職。
歌を歌うから声は大きく繊細で、言葉を紡ぐから饒舌で、世を知る為に愛想は良いもの。
少なくともブラックスミスはそう思っていたのだが、今隣にいる男はそれとは正反対だ。
無愛想で非社交的で横暴でおおざっぱ。
話すことや声に品はそうそう感じられない。

しかし不思議と彼は良い歌い手と思う。
「歌ってくんな。それがアンタの仕事だろ。アンタが好きで進んだ道だろ。好きなことやってりゃ悩みも吹き飛ぶ。客寄せにもなるし一石二鳥だ。」
「…んな気分じゃねー…。今歌ったら呪いの歌にでもなりそうだ。」
「じゃ、悩みの種んとこで呪いの歌披露してやんな。」

煙草代わりに棒付きの飴玉しゃぶりながら適当にそう言うと、バードは何故か鼻で笑った。
「そりゃあ、逆効果で奴も喜びそうだな。」
その発言から、彼の悩みの種の想像がつき、やっぱりと苦笑いした。

「もう観念して望み通りヤッてやれば?…あ、お嬢さん気にせんでな、そんな浮ついた話じゃないよん。」
客として居合わせた女性が熱の篭った好奇の眼差しで見るのを、笑顔であしらう。
「知り合いに殺人を進める気か。」
「ハイハイ、ジョーダンだよ。まあその男のタナトスには突っ込まないとしてだ、なんでお前さんなんだろな。」

「それは一目惚れってやつだ!」
突破トーンの外れた声がして、二人は飛び上がる。
声の方を見れば、いつの間にか商品を詰めたカート内に例のアサシンが体育座りしていた。

バードは三歩下がるが、ブラックスミスは近寄ってまじまじと彼を眺めた。
「彼が例のアサシン?」
「例のアサシンです。」
ブラックスミスの疑問に当の本人が答え、フレンドリーに握手なんかしている。

「なんだ、スッゲー変態って言うからキモい奴かと思ったら、ケッコーカワイイ奴じゃん。」
「変態でキモいですよ。自覚ありますよ。」

「仲良く話してんじゃねーよ!!!!」
少し離れて二人の様子を見ていたバードは友人が忌み嫌う男のそばに置き去りにできず、しかし近付くこともできずに離れて怒鳴りつけた。

「テメエ、何しに…いや聞くまでもねーな。さっさと消えろ!」
鬼のような形相で怒鳴りつけるバードに、ブラックスミスはまあまあと宥める声をかけた。
「んなカッカすんなよ。思ったより僕の好みだなアサシンさんよ。」
「ありがとう、ブラスミさんも綺麗な顔してるね。整形?」

サラリと人を馬鹿にしたようなことを言うアサシンは笑顔ながら相手を好いてないのかもしれない。
だが商売人の笑顔なのかそれとも彼を気に入ったのか、ブラックスミスは気にとめた様子もなく「自前だよ」と笑う。

心の広いその人間をまじまじ見ているのは興味が沸いたからだろう。
笑顔で皮肉を言うのはやめて、今度こそ互いに向き合ったように見えた。

「ブラスミさん、彼のことは好みじゃないのか?」
アサシンはバードを指差して聞く。
「あー…歌は好きだけど顔と性格が好みじゃねーな。愛だの恋には発展の見込みなしのフツーの友人だぜ?」
「よかった。」

アサシンはほほえましいほどに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあアンタは殺さなくて済む。」
笑顔のまま口にした言葉に、今度こそブラックスミスは固まった。
バードに手を出す奴は殺すと、暗にそう言っている。
バードは口を閉ざし、吐き気を堪えるばかりだ。

「そんなにコイツがイーのかい。」
「うん。」
遊び相手を選ぶ子供のように軽い返答と無垢な笑顔だった。

「あ、そろそろ仕事の時間だ。」
「あっそ。バイバーイ、フラれたのは久々だなあ。殺しは無理だけどいじめて欲しいだけなら俺がヤッてやんのに。」
友人の言葉に、バードは再び驚いてその場の二人どちらにも近付きたくなくなった。

「ブラスミさん、俺の相手したかったら顔の整形はいらないから、胸と股間整形してきてね」
「……。」
そう言ってカートからはい出して二人に背を向けたアサシンを、ブラックスミスは無言で見送った。


「バレてたか。やるなあのにーちゃん。」
「おい。」
「ん?」
ブラックスミスが振り返ると、ずっと会話に入っていなかったバードが顔面蒼白にしていた。

「…さっきの言葉、冗談だろ?」
「ん?俺が代わりにやってやんのに、ってやつならマジだよ。」
「………。」
「知らなかった?俺ドSだよ?」

一歩後じさった純粋な青年を見て、悪びれた様子もなく笑う。
被虐趣味という言葉を聞いたことがある。
恐らく虐められるのが好きということだろう。
ではそれ以上の趣向は、何趣味と言われるのだろう。

一人、いるのだ。
痛いのが好き、虐められるのが好き、罵られるのが好きという。
だがあれが本当に望むのはそれ以上。

死、いや殺。
もしくは虐殺。
そうしてくれと哀願してはこのバードを困らせるアサシン。

ボサボサの金髪で焦げ茶の瞳、アーモンド型の少し悪い目つきだがいつも笑みを浮かべて人懐こそうな人相。
可愛いというよりかっこいいが合うようないい歳した大の大人だが、どこか小動物を思わせる。
いや、人懐こい大型犬がしっくりくるだろうか。

「コロシテヨ」
そんな笑みを浮かべたまま、異質な言葉を呟く。
毎日、毎日。

「切リ裂イテ、ソノナイフデ」
跨がったバードの足の間で自ら服を脱いでいく男は、いつも以上に嬉しそうで異質。
バードがナイフを煌めかせると、身体をよじって恍惚に瞳を潤ませた。

「いい加減にしろよ、変態。」
何故か苦しくて、声が音になったかわからない。
ならなかった気がする。
でもアサシンは嬉しそうに手を延ばしてきた。

その両腕のどちらにも自傷の後はない。
あるのは胴体、胸と腹と背の上部に悍ましいほどに深く醜く刔られ切り裂かれ、縫合されたのかされなかったのか分からないような酷い傷痕。
胸と腹はともかく、背中に自分でつけられる筈がない。

「キザンデ…内臓マデ、突キ刺シテ…」
変態どころじゃない、狂ってる。
今さら再確認した、この男に自虐趣味はない。
殺されたがってる。

薄いところはピンク、深いところは茶色になった傷を、絵のように張り付けた白い肌が汗に光る。
隙間のあいたキャンバスを埋めるように、ナイフが白に引き付けられ…

いや違う。
こんなことしても意味がない、嬉しくも楽しくもない。
不快で不快で吐き気がする。
なのに掌にはナイフの柄が張り付いて離れない。

アサシンに向かって、錆びた刃先が近付いていく。
「…ッア」
傷の無い肩口に刃を充てて胸辺りまで滑らせる。

案外人間の身体は柔らかい。
簡単に肌が裂けて赤い雫が覗く。

「…ット、モット」
情婦のように赤子のように彼はバードに縋り付く。
錆びたナイフをフェラチオのように口に含み舐める。

バードの背筋に冷たいものが走ったのは、目の前の狂人に寒気がしたから。
欲情したからではない。

だが、いつも殺せと哀願してくるのを突っぱねていたから知らなかった。
こんな妖しく、淫らで、美しい顔をするのか。
口内か唇の端をナイフで切ったのか、唇の端から顎へ血が混じった唾液が顎へ流れ落ちる。

それを指先で拭って観察するように見つめた。

荒い息遣い。
熱い吐息。
「…この程度で勃ってんのかよ。」
「アア…最高ニ、幸セダヨ…」
好きな男に抱いて貰える女のように、嬉しそうに瞳を輝かせて…。
これで本当に殺したら、どんな淫らな顔をするんだろう。

さっきより深く、急所は避けて突き刺した。
想像より固い肉にめり込む刃先の感覚。
頭のどこかで止めろと自分は叫んだ。

狂ってる、アサシンも、このバードも。

バードは自分のことでありながら他人事のように二人を非難していた。

「ッア、アアアアッ!!」
身体を弓なりに張って、咽から漏れる甘い悲鳴。
バードは思わず耳を塞ぐ。
だがまだバードはナイフを握りアサシンを抑えつけて切り刻んでいる。

…ではあれは誰だ?
男を切り刻んでいる狂ったバードは。
傍らでうずくまって耳を塞いでいるバードは。
どちらが自分なのか。

「ハッ、アア!ハアッハアッ!!」
「啼けよ、盛りのついた雌猫みたいに。」
「止めろ、狂ってる…気持ち悪いんだよ!」

二人だった筈なのにいつのまにか暗闇には三人いた。
甘さを含む悲鳴、笑い罵る声、震え非難する声。
皮と肉が裂かれ血が流れ出、その上で絡みあうバードとアサシンの周りで血が跳ねてぴちゃぴちゃと響く。
それは凄惨ながら蠱惑めいていた。

「アッ…ン、ア!イクッ…ア、アア」
「望み通り、殺してやるよ!」
「嫌だ、止めろ!!」

自分から死にたがる変態だろうと、人を殺すのなんかごめんだ。
こんなことを望む筈がない。
耳を塞いでうずくまっているのが、自分―――



「……イ、シテ…ル…」
すぐ耳元で囁かれ、濡れた手で頬を撫でられる。
気が付けば、肌が細切れになり内臓まで覗かせたアサシンの死体は、自分の足の間に。

「…っう…っ」
吐き気に揺らいでナイフをとり落とす。
口元を押さえようとした手は真っ赤だった。



悪夢はそこで覚める。
宿屋の食堂に霧雨が降り薄暗い朝とは似つかわしくない爽やかな音楽が響き渡る。
その場にいる者の気を晴らさせるような。

それに聴き入る者は少ないが、それは確かに辺りの人々の耳に入ってその心を和ませている。

歪な音を立ててギターの弦と音楽が止んだ瞬間、一瞬だけ人々の声は途切れ、しかしまたすぐに流れた。

「っ…」
ギターの弾き手は自分の人差し指を唇にあてて軽く吸った。
弦がそろそろ古くなっていたのも事実だが、それ以上に弾く指に乱暴な力が篭ってしまっていた。

ため息を一つついて切れた弦を張り替えようと、目の前のテーブルに乗った朝食の皿を脇にやってギターを置いた。

「悩みでもあんの?」
不意にかけられた言葉にバードは眉を潜めた。
向かい合う位置にアサシンの男がいるが、そこに席はなくテーブルに肘を立てて寄り掛かっている。
バードの連れではないのは一目で分かる。

「…その目、俺が原因だって言いたい?」
そう言うアサシンはどこか嬉しそうで、バードは更に眉を潜めた。
「今俺は機嫌が悪いんだよ特にお前の顔は見たくないんだよ、そのサンドイッチやるからさっさと家に帰れ。」

そう言って皿をアサシンに押し付けて、胸のポケットから眼鏡を出してつけ、ギターに向かい合った。
「俺、なんか気に障ることした?」
「お前が俺の気に障らない日はなかった。」
「いや、その自覚はあるけど、今日はやたら機嫌悪いじゃないか。そこまで悪くさせることを昨日した覚えはないよ?」
「……。」

真っ直ぐに地に落ちる針のような赤い髪。
それと同じ鋭さを持つ猛禽類のような金の視線でアサシンを睨みつける。
言われようのない視線だがアサシンは触れない方がいいと判断した。

「夢見が悪かった?」
触れない方がいいと判断したからといって触れないとは限らない。
彼は好奇心全開で詰め寄る。

「俺に変なことされる夢か?」
「黙れ。」
「もしかして俺に殺される夢?」
「黙れ。」
アサシンは注意深く相手の表情とギターに移した目を監査しながら言葉を発する。

「俺を殺す夢?」
「黙れ。」
「あ、これか。」
揺らいだ瞳、声に含まれた焦り。
でもそれを隠そうとするさっきからの代わり映えのない言葉。



嫌味ったらしい満面の笑みを睨みつけるバードの視線には殺気さえこもる。

「気色悪いんだよ…お前…っ」
その言葉も褒め言葉だとばかりに笑う。

「殺していいよ。」
アサシンのその一言にバードは堰を切ったように殴りつけた。

ただし、目の前の男ではなくテーブルを。
「消えろ。」

「好きに遊んでくれてからでも構わねーよ。」
「黙れ。」
「弓なら殺す感触も残らないだろ?」
「俺がブチ切れるまえに消えろ。」
「内臓切り売りしていいよ。俺不健康だけど小金にゃなるだろ。」
「…っ!!」

バードの手が延びアサシン装束の胸倉を乱暴に掴む。
帯から裾が抜けて胸元から腹にかけてが大きく開いて覗いた。
そこには痛々しい傷痕、縫い後がグロテスクなまでに浮かび上がり、偶然見かけてしまった隣席の中年の男が顔を背ける。

「あんたの手で、切り売りしてくれる?」
もう既にされた後では、そんな風に思うほどの傷。
彼はバードの怒りなど擽ったいとしか思っていない。

「オアシスに頭突っ込んで冷やして来い!!!!」
さっきまでの繊細な演奏していたとは思えない程大声を張り上げてアサシンを突き飛ばし、ついでとばかりにグラスに入っていた水をぶちまける。

「……。」
バードが足早に去るまで、彼の逆鱗に触れた張本人は謝りもせずに床に尻餅をついたまま笑っていた。


「…優しいなあ、相変わらず。」
自分の状態が分かっていないのか、そんな言葉を吐いてアサシンは上機嫌に宿を出ていく。
バードが食べずに残したサンドイッチを片手に持って。
「ヒショウ…怒ってる?」
「…仕方のないことだろ、怒ってない。」

そうは言ったが、ずっとルナティスに背を向けているのはいらついた顔を見られないようにだ。
彼は鋭い、目を見ながら話したならこちらの心情なんかすぐに見抜く。

「そりゃツインの部屋がなくてダブルしか取れなかったのは仕方ないことだけどさ。」
ツインを四部屋取りたかったが、一部屋はダブルしか残っていなかった。
それに躊躇いもなくそこがいいと言ったルナティスが喜々として俺に飛び掛かった。

俺が怒ったのはそこだと、本人もちゃんと分かっている。
分かるならやるな、おかげで宿の人や周りの客に俺達が同性愛者と即バレだ。



しばらく静かになった。
背中合わせで起きているか寝ているか分からないが、寝息はしない。

「……ヒショウ」
「なんだ。」
そろそろ苛立ちは消えて、代わりに眠気が先だってきた。

「食堂で隣の部屋の人がこっち見て『アイツらホモだぜ』とか言ってたの聞こえた?」
「………。」

お前に聞こえてアサシンの俺に聞こえないわけがないだろう。
正確には『アイツらホモだぜ夜中男の喘ぎ声とかしてきたら最悪だな、どうする』だ。
わざわざ俺の怒りを蒸し返すようなこと言って、なんのつもりだ。

「ホモってホモサピエンスの略じゃね?僕ら限定じゃなくね?と思って今から文句言いたくなっちゃった。」

…この場合のホモは同種の、って意味でホモサピエンスじゃない。
と思ったが、今はあまりコイツと討論したい気分じゃない。
「勝手にしろ。」
適当に返した。


「そっか、じゃあ隣の部屋なら少し声張り上げれば聞こえるよね。」

…何、ちょっと待
「みんなみんなー、ホーモなんだホモサピエンスなーんーだー!!!」
「生きているんだ友達なんだみたいなリズムで変なこと叫ぶな馬鹿が!」
寝転がったま振り返りざまに枕で彼の顔を潰した。

「周りに迷惑だろうが、さっさと寝ろ。」
「むー…」




「ねー、ヒショウ。」
「今度はなんだ。」
「皮下脂肪ってあるじゃん。」

「は?」
「皮膚の下に脂肪があるんだよね、じゃあオークとかも斬ったらびちゅびちゅあふれるのかな。」

気持ち悪い想像すんな。
「あいつらそんな脂肪なさそうだが。」
「そっか、じゃあオークヒーローとか」
「知るか。」

もう付き合いきれない、と毛布を肩まで被った。



「…ヒショウ、の理想の未来の生活ってどんなの?」
……無意味なことを聞いてきていたと思ったら、いきなり無視しがたい質問を飛ばしてくるな。
と、ため息を尽きながらも、少し考えてみた。

「…身体が動かなくなってきたら冒険者やめて適当に街の職に就く…てところか。」
「……そっか。」

「…お前は。」
「僕?僕は………」

しばらく彼は黙りこんだ。
まあ、追求する気はないし、こっちも眠くなって来たから、このまま寝てしまってもいいやなんて気持ちで彼の言葉の続きを待った。



「シェイディの家ってアルベルタの商家だけど跡取りが姉弟共にいなくなって廃れ気味らしいじゃん。」
「は?」
「シェイディ盾にとってそれ乗っ取って優雅に暮らせないかなと思ってた。」
「おい。」

とても迂闊に寝ていられない答えだった。
実に腹黒く現実味のある野望。

「シェイディが聞いたら殺されるぞ。」
「そうかなあ…だってシェイディ達自ら離縁したみたいじゃないか。」
「だからと言って仲間の家庭を乗っ取るとか言うな。」
「分かった。じゃあヒショウがいればどんなでもいい。」
「…今度はいきなり望みが低くなったな。」
「低くないよ。小さい頃からの野望だ。」


さらりとこうゆうことを言われると、顔が熱くなる。
「………なら」
なら、ずっといてやる。

そう小さく呟こうとした。
「ずっと昔からヒショウにあんなことこんなことしたいとか思ってたんだ。」
思わず口をつぐんだ。
…余計なことを言わなければいいものを。


―――――――――――


オチなし。
ただの寝る前のたんたんとした会話
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