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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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宿屋の食堂に霧雨が降り薄暗い朝とは似つかわしくない爽やかな音楽が響き渡る。
その場にいる者の気を晴らさせるような。

それに聴き入る者は少ないが、それは確かに辺りの人々の耳に入ってその心を和ませている。

歪な音を立ててギターの弦と音楽が止んだ瞬間、一瞬だけ人々の声は途切れ、しかしまたすぐに流れた。

「っ…」
ギターの弾き手は自分の人差し指を唇にあてて軽く吸った。
弦がそろそろ古くなっていたのも事実だが、それ以上に弾く指に乱暴な力が篭ってしまっていた。

ため息を一つついて切れた弦を張り替えようと、目の前のテーブルに乗った朝食の皿を脇にやってギターを置いた。

「悩みでもあんの?」
不意にかけられた言葉にバードは眉を潜めた。
向かい合う位置にアサシンの男がいるが、そこに席はなくテーブルに肘を立てて寄り掛かっている。
バードの連れではないのは一目で分かる。

「…その目、俺が原因だって言いたい?」
そう言うアサシンはどこか嬉しそうで、バードは更に眉を潜めた。
「今俺は機嫌が悪いんだよ特にお前の顔は見たくないんだよ、そのサンドイッチやるからさっさと家に帰れ。」

そう言って皿をアサシンに押し付けて、胸のポケットから眼鏡を出してつけ、ギターに向かい合った。
「俺、なんか気に障ることした?」
「お前が俺の気に障らない日はなかった。」
「いや、その自覚はあるけど、今日はやたら機嫌悪いじゃないか。そこまで悪くさせることを昨日した覚えはないよ?」
「……。」

真っ直ぐに地に落ちる針のような赤い髪。
それと同じ鋭さを持つ猛禽類のような金の視線でアサシンを睨みつける。
言われようのない視線だがアサシンは触れない方がいいと判断した。

「夢見が悪かった?」
触れない方がいいと判断したからといって触れないとは限らない。
彼は好奇心全開で詰め寄る。

「俺に変なことされる夢か?」
「黙れ。」
「もしかして俺に殺される夢?」
「黙れ。」
アサシンは注意深く相手の表情とギターに移した目を監査しながら言葉を発する。

「俺を殺す夢?」
「黙れ。」
「あ、これか。」
揺らいだ瞳、声に含まれた焦り。
でもそれを隠そうとするさっきからの代わり映えのない言葉。



嫌味ったらしい満面の笑みを睨みつけるバードの視線には殺気さえこもる。

「気色悪いんだよ…お前…っ」
その言葉も褒め言葉だとばかりに笑う。

「殺していいよ。」
アサシンのその一言にバードは堰を切ったように殴りつけた。

ただし、目の前の男ではなくテーブルを。
「消えろ。」

「好きに遊んでくれてからでも構わねーよ。」
「黙れ。」
「弓なら殺す感触も残らないだろ?」
「俺がブチ切れるまえに消えろ。」
「内臓切り売りしていいよ。俺不健康だけど小金にゃなるだろ。」
「…っ!!」

バードの手が延びアサシン装束の胸倉を乱暴に掴む。
帯から裾が抜けて胸元から腹にかけてが大きく開いて覗いた。
そこには痛々しい傷痕、縫い後がグロテスクなまでに浮かび上がり、偶然見かけてしまった隣席の中年の男が顔を背ける。

「あんたの手で、切り売りしてくれる?」
もう既にされた後では、そんな風に思うほどの傷。
彼はバードの怒りなど擽ったいとしか思っていない。

「オアシスに頭突っ込んで冷やして来い!!!!」
さっきまでの繊細な演奏していたとは思えない程大声を張り上げてアサシンを突き飛ばし、ついでとばかりにグラスに入っていた水をぶちまける。

「……。」
バードが足早に去るまで、彼の逆鱗に触れた張本人は謝りもせずに床に尻餅をついたまま笑っていた。


「…優しいなあ、相変わらず。」
自分の状態が分かっていないのか、そんな言葉を吐いてアサシンは上機嫌に宿を出ていく。
バードが食べずに残したサンドイッチを片手に持って。
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