*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)
*小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。
*かなりぶつ切りです。
*携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)
*携帯にも対応しています。
*コメントでの感想なども歓迎です。
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「ちょっとこっちきて」
日が沈んだ頃、ルナティスが前触れもなくヒショウにそう呼びかけ、外へ連れ出す。
数分歩いて辿りついたのは、簡素な屋敷の脇。
外壁に松明が点々と括り付けられている通りだった。
「何だ、こんな所で」
「見て欲しいのがあるんだ」
そう言ってルナティスが袖の中に隠し持っていた物を掲げる。
マナが知り合いのダンサーから貰ったと言って先刻見せびらかしていた装飾刀だった。
刃の研がれていない刀身はシンプルだが柄には過剰な装飾と絹布があしらわれている。
マナが一目で気に入ったというだけあって近くで見ても見事なものだった。
「………、嫌な気分になったら言ってくれよ。」
ヒショウには全く意味の掴めないようなことを言いながら、ルナティスは刀を掲げる
松明の炎と月明かりが映し出す世界。
刀と彼の横顔が揺らめく。
針金を通したように延びる背筋、刀の刃先で反対の手の平から二の腕迄をゆっくりとなぞり
そして目の前に水平に走らせ、刀を手首と指で回転させながら背を回り、いつの間にか反対の手に収まる。
足を開き、まるでそこにいない敵を切り裂き、威嚇するようにルナティスは刀を振るい、寸分の狂いもないリズムでステップを踏み虚空を睨みつける。
徐々にリズムは速まり、高鳴り、腕、腰、足、刀。全てが煽情的に舞う。
まるで戦場の炎のように激しく舞い、狂乱の音楽が聞こえるようだった。
だがそうかと思えばリズムは治まり水面さえざわめかせないような緩やかで無音のステップと刀の機械的な動き。
舞神の様に凜とした表情が神秘的で、髪や睫毛微かな唇の動き、なにもかもに魅入られる。
リズムが2度、いや3度だったかもしれないが、変調したころに静かに夜を燃やすような舞いはひそかに静まっていった。
それは紛れも無く、見事な舞神のものだった。
「……どう?」
どうと聞かれても
「……凄いな、何とも言えず…綺麗だった。どこでそんな…」
「あそこで」
ルナティスが言葉を濁し、苦笑いする。
それだけで分かってしまった。
そしてヒショウは素直に絶賛してしまったことを後悔した。
「いろいろあって、仕込まれたんだけど、いつも体調不良だったから完全じゃなかったんだよね。…必死、ではあったけど。」
「………。」
「だから万全の状態でのは、ヒショウが初めてだな。…うん、嫌じゃなかったら見て貰いたかったから。」
そう言う笑顔に陰はないのに、悲観的になるのはルナティスに悪いかもしれない。
だがならずにはいられなかった。
閉じ込められ踏みにじられていた、それだけではない。
彼が言葉を濁す場所で純粋に舞いを習ったとは思えない。
傷付いた身体で、見世物にされながら舞う少年の姿が目に浮かぶ。
「……皆の前では見せないのか?」
気の利いた慰めや労りなど思いつかなかった。
「ヒショウに、1番に見て欲しかったから。皆には…今度の宴会でやるかな?自分がこうゆうのやってた、って、この宝刀見るまで忘れてたし。」
「……きっと、皆驚く。」
「だったらいいな。」
余りにも自然に笑うルナティス。
彼は…心から笑っていないのかもしれない。
でも
「今が幸せだから、昔の嫌な思い出だって今に活かせるさ。」
その言葉は事実だろう。
その幸せの片鱗になれるなら。
喜んで自分を彼に捧げよう。
彼の苦痛も受け入れよう。
「……。」
ヒショウは冷静な思考と緩やかな動きで目の前のルナティスを引き寄せ、腕の中に抱きしめた。
彼は突然の事で目を丸くしたが、単純に嬉しいと思ったから何もしなかった。
「…………聞いて、いいか。」
「………。」
肩に顔を埋めた彼から「何を?」とまで聞かれずとも分かった。
話すことは苦ではなかった。
それでまたヒショウがルナティスに引け目を感じるのが目に見えてしまい、迷う。
だが、ただ受け入れ慰めてくれてはいてもヒショウから話に突っ込んでくるのは初めてのこと。
彼なりにいろいろ考え、ルナティスの苦痛の記憶と正面から向き合い歩み寄ろうとした結果だろうと、補足がなくてもわかる。
「…あの部屋から時々、連れ出された。僕を心底気に入った人がいて、特別に。派手な服着せられて。」
「…何処へ連れていかれた。」
「…サロン。身なりのいい人達沢山がいて、奴隷を連れてくる人もいた。」
「…そこで何を。」
ルナティスが、ヒショウの背中に手を回して抱き返す。
彼はまるで催眠術に誘導されるようにポツリポツリと話す。
「さっきの踊りを。」
それにヒショウはまた質問を返して話を引き出していく。
「それだけか。」
そしてルナティスはおとなしく答える。
「………――――。」
それは、壮絶な悪夢。
ヒショウはそれに耐え切れなかった。
日が沈んだ頃、ルナティスが前触れもなくヒショウにそう呼びかけ、外へ連れ出す。
数分歩いて辿りついたのは、簡素な屋敷の脇。
外壁に松明が点々と括り付けられている通りだった。
「何だ、こんな所で」
「見て欲しいのがあるんだ」
そう言ってルナティスが袖の中に隠し持っていた物を掲げる。
マナが知り合いのダンサーから貰ったと言って先刻見せびらかしていた装飾刀だった。
刃の研がれていない刀身はシンプルだが柄には過剰な装飾と絹布があしらわれている。
マナが一目で気に入ったというだけあって近くで見ても見事なものだった。
「………、嫌な気分になったら言ってくれよ。」
ヒショウには全く意味の掴めないようなことを言いながら、ルナティスは刀を掲げる
松明の炎と月明かりが映し出す世界。
刀と彼の横顔が揺らめく。
針金を通したように延びる背筋、刀の刃先で反対の手の平から二の腕迄をゆっくりとなぞり
そして目の前に水平に走らせ、刀を手首と指で回転させながら背を回り、いつの間にか反対の手に収まる。
足を開き、まるでそこにいない敵を切り裂き、威嚇するようにルナティスは刀を振るい、寸分の狂いもないリズムでステップを踏み虚空を睨みつける。
徐々にリズムは速まり、高鳴り、腕、腰、足、刀。全てが煽情的に舞う。
まるで戦場の炎のように激しく舞い、狂乱の音楽が聞こえるようだった。
だがそうかと思えばリズムは治まり水面さえざわめかせないような緩やかで無音のステップと刀の機械的な動き。
舞神の様に凜とした表情が神秘的で、髪や睫毛微かな唇の動き、なにもかもに魅入られる。
リズムが2度、いや3度だったかもしれないが、変調したころに静かに夜を燃やすような舞いはひそかに静まっていった。
それは紛れも無く、見事な舞神のものだった。
「……どう?」
どうと聞かれても
「……凄いな、何とも言えず…綺麗だった。どこでそんな…」
「あそこで」
ルナティスが言葉を濁し、苦笑いする。
それだけで分かってしまった。
そしてヒショウは素直に絶賛してしまったことを後悔した。
「いろいろあって、仕込まれたんだけど、いつも体調不良だったから完全じゃなかったんだよね。…必死、ではあったけど。」
「………。」
「だから万全の状態でのは、ヒショウが初めてだな。…うん、嫌じゃなかったら見て貰いたかったから。」
そう言う笑顔に陰はないのに、悲観的になるのはルナティスに悪いかもしれない。
だがならずにはいられなかった。
閉じ込められ踏みにじられていた、それだけではない。
彼が言葉を濁す場所で純粋に舞いを習ったとは思えない。
傷付いた身体で、見世物にされながら舞う少年の姿が目に浮かぶ。
「……皆の前では見せないのか?」
気の利いた慰めや労りなど思いつかなかった。
「ヒショウに、1番に見て欲しかったから。皆には…今度の宴会でやるかな?自分がこうゆうのやってた、って、この宝刀見るまで忘れてたし。」
「……きっと、皆驚く。」
「だったらいいな。」
余りにも自然に笑うルナティス。
彼は…心から笑っていないのかもしれない。
でも
「今が幸せだから、昔の嫌な思い出だって今に活かせるさ。」
その言葉は事実だろう。
その幸せの片鱗になれるなら。
喜んで自分を彼に捧げよう。
彼の苦痛も受け入れよう。
「……。」
ヒショウは冷静な思考と緩やかな動きで目の前のルナティスを引き寄せ、腕の中に抱きしめた。
彼は突然の事で目を丸くしたが、単純に嬉しいと思ったから何もしなかった。
「…………聞いて、いいか。」
「………。」
肩に顔を埋めた彼から「何を?」とまで聞かれずとも分かった。
話すことは苦ではなかった。
それでまたヒショウがルナティスに引け目を感じるのが目に見えてしまい、迷う。
だが、ただ受け入れ慰めてくれてはいてもヒショウから話に突っ込んでくるのは初めてのこと。
彼なりにいろいろ考え、ルナティスの苦痛の記憶と正面から向き合い歩み寄ろうとした結果だろうと、補足がなくてもわかる。
「…あの部屋から時々、連れ出された。僕を心底気に入った人がいて、特別に。派手な服着せられて。」
「…何処へ連れていかれた。」
「…サロン。身なりのいい人達沢山がいて、奴隷を連れてくる人もいた。」
「…そこで何を。」
ルナティスが、ヒショウの背中に手を回して抱き返す。
彼はまるで催眠術に誘導されるようにポツリポツリと話す。
「さっきの踊りを。」
それにヒショウはまた質問を返して話を引き出していく。
「それだけか。」
そしてルナティスはおとなしく答える。
「………――――。」
それは、壮絶な悪夢。
ヒショウはそれに耐え切れなかった。
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「ルナティスさんって、ヒショウさん以外に彼氏いなかったんですか?」
「さりげなく彼氏なんだね、ありがとうセイヤ。僕、一応ノーマルだよ。」
まあ、男と寝ることに抵抗はないのは確か。
ついでに恋人は男だけど。
なんだか人の事情に首を突っ込むのが好きな後輩アコライト君がにこにこしながら聞いてくる。
凄く聞きたい、ってわけではないんだろう、顔がそんな真剣じゃない。
彼には何となく話のきっかけが欲しいくらいのこと。彼の話好きな性格のおかげであまり喋らない人種が多いこのギルドも明るい日常だ。
「ヒショウのことが好きなのは、もう小さい頃からずっとだったからねえ…」
「じゃあ、ずっと一筋だったんですね。」
「いや、何回か彼女はいた。」
「……いたんですかい、ヒショウさんの下りが要りませんよ。」
「それでも心はヒショウ一筋だったと主張するために。」
一応、会話が聞こえる位置にヒショウがいるからね。
そちらを見ると「はいはい」なんていい加減な反応しながら武器を磨いている。
「まあ、一応、男の子ですから僕も…片思いの寂しさを紛らわす為にね…」
何だか言い訳がましいな、なんて思いながら歯切れが悪くなる。
それを言えば、ヒショウにだって彼女とまではいかなくても女の人との付き合いはあったから後ろめたくはない筈なんだけど。
「あ、一時期マナさんと付き合ってませんでしたっけ。」
「いや、あれはヒショウを騙す為に」
あ、なんか思い出してヒショウが苛々してる…
武器を扱う手が雑になっているのが見る人が見れば気付くだろう。
まあ、彼にはいろいろ嫌な重いさせたしな…嘘の既成事実で僕が無理矢理抱いたわけだし。
でも初めてヒショウが僕に見捨てられるのを懸念して泣いたっけ。
あれはたまらなかった。
懐かしいなあ…。
今思えばかなり酷いことしてるけど、あの時はいろいろ切羽詰まってたから…………
「でも嘘でよかったですよね。もし本当にマナさんとルナティスさんがくっついてたら近親相姦だし。」
可愛い顔してさらりとえげつないこというなセイヤ!
あ。
「………。」
僕は何だか顔面蒼白になりながら、マナを見た。
彼女は目を丸くして、けれどすぐに僕の視線の意味に気付いたらしい。
「あー………遅かったな。」
マナはにやりと悪戯っぽく笑っただけだった。
お、遅かったなとかそうゆう問題じゃないだろ!?
「ま、まさか…恋人のフリに乗じてやっちゃったとか…」
「……フリに乗じてというか…もっと昔に……い、いや!でも多分酔った勢いで裸で寝ただけで多分やってはいない!泥酔すぎてそんなこと出来る状態じゃ」
「私あの後超フトモモ痛かったんだけどー、股とかマジ痛かったー。」
「うそだああああああああ!!!!」
笑いながら爆弾を落とすマナを、無意味理不尽にシバきたくなった。
別に、道徳に反して心傷付くような神経してないけどさ、思いもしなかった禁忌ってやつに酷くショックを受ける。
「………近親相姦はどーでもいいが、マナさんに手を出してた事実は見逃し難いぞルナティス、土下座しながら切腹しろ。」
「土下座で腹切りって難しいし!いや、しないし!っていうかどーでもいいのはそっち!?」
「まーまー、シェイディ、これでも一応私の弟なんだ、大目に見てくれたまえ。」
「マナさんもマナさんだ!俺がいたのにルナティスと…っ」
「いや、お前と付き合う前だからな?」
僕はうちひしがれながら、ヒショウの方を見てみた。
一瞬、こちらを横目に見ていた彼と目が合う、が
目を反らされた。
Σ(;゜Д゜;;)
「ヒショウ…!無意識だったんだ!不可抗力だったんだ!知らなかったんだ!見捨てないでー!!」
「いや、別に…」
ヒショウはマナの方をちらっと見てから、溜め息をついた。
『やっぱりルナティスもあーゆうスタイルのいい女がいいんだろうな、乳とか』とか言っているような気がして思わず慌てる。
「確かにマナみたいにボリュームあるスタイルはタイプだけどヒショウに比べたらスッポンだから!ヒショウみたいに優しくて綺麗で細くて感度いいのとかさいぶほっ」
僕の褒めちぎりは顎への衝撃で切れた。
足を組み換え様に蹴り上げられたらしい。
……いや、怒られるの分かってたけどね、分かって欲しかったから。
ぐるりと視界は回転して、僕の意識も暗転していった。
「…大体、嘘だろう。」
ヒショウの呟きに、気絶したルナティスを介抱していたセイヤが小首を傾げる。
「マナがお前にやられた、って話。」
「え?」
ヒショウははっきりとそう言いきるが、その根拠はどこに?
当人でさえ否定しきれなかった事実を何故ヒショウが?とセイヤは怪訝な顔で訴え続けている。
「昔、皆で盛大に飲んだ時のことだろ。お前とマナがあまりに酒臭かったから二人まとめて部屋に押し込んだ。で、そのあと心配になって部屋覗いたら二人して吐いてたから、俺が汚れた服脱がして二人をベッドに押し込んだ。」
ルナティスにとってはありがたい事実を、当のルナティスは気絶して聞き逃している。
「なんだ、そうゆうことですか。」
「そうゆことなんだな」
「お前が言うな、マナ」
「でも、だからって裸にしなくてもよかったんじゃ?」
「裸にはしてない、ルナティスは下は履いてたしマナには肌着を着せたぞ?」
「………え、じゃあ…?」
何故ルナティスは二人とも裸だったと記憶していたのか。
その理由に悩んだのは数秒だった。
その場にいた者の視線が、マナに集まる。
「てへっ」
マナは自分の頭を拳でコツンッと叩いて舌を出した。
美人だけあってそのかわいらしい動作は不快なものでは決してなかったが、皆を呆れさせた。
そんなことは露知らず、ヒショウの足元に倒れるルナティスは夢の中で神に祈りを捧げているようだ。
「さりげなく彼氏なんだね、ありがとうセイヤ。僕、一応ノーマルだよ。」
まあ、男と寝ることに抵抗はないのは確か。
ついでに恋人は男だけど。
なんだか人の事情に首を突っ込むのが好きな後輩アコライト君がにこにこしながら聞いてくる。
凄く聞きたい、ってわけではないんだろう、顔がそんな真剣じゃない。
彼には何となく話のきっかけが欲しいくらいのこと。彼の話好きな性格のおかげであまり喋らない人種が多いこのギルドも明るい日常だ。
「ヒショウのことが好きなのは、もう小さい頃からずっとだったからねえ…」
「じゃあ、ずっと一筋だったんですね。」
「いや、何回か彼女はいた。」
「……いたんですかい、ヒショウさんの下りが要りませんよ。」
「それでも心はヒショウ一筋だったと主張するために。」
一応、会話が聞こえる位置にヒショウがいるからね。
そちらを見ると「はいはい」なんていい加減な反応しながら武器を磨いている。
「まあ、一応、男の子ですから僕も…片思いの寂しさを紛らわす為にね…」
何だか言い訳がましいな、なんて思いながら歯切れが悪くなる。
それを言えば、ヒショウにだって彼女とまではいかなくても女の人との付き合いはあったから後ろめたくはない筈なんだけど。
「あ、一時期マナさんと付き合ってませんでしたっけ。」
「いや、あれはヒショウを騙す為に」
あ、なんか思い出してヒショウが苛々してる…
武器を扱う手が雑になっているのが見る人が見れば気付くだろう。
まあ、彼にはいろいろ嫌な重いさせたしな…嘘の既成事実で僕が無理矢理抱いたわけだし。
でも初めてヒショウが僕に見捨てられるのを懸念して泣いたっけ。
あれはたまらなかった。
懐かしいなあ…。
今思えばかなり酷いことしてるけど、あの時はいろいろ切羽詰まってたから…………
「でも嘘でよかったですよね。もし本当にマナさんとルナティスさんがくっついてたら近親相姦だし。」
可愛い顔してさらりとえげつないこというなセイヤ!
あ。
「………。」
僕は何だか顔面蒼白になりながら、マナを見た。
彼女は目を丸くして、けれどすぐに僕の視線の意味に気付いたらしい。
「あー………遅かったな。」
マナはにやりと悪戯っぽく笑っただけだった。
お、遅かったなとかそうゆう問題じゃないだろ!?
「ま、まさか…恋人のフリに乗じてやっちゃったとか…」
「……フリに乗じてというか…もっと昔に……い、いや!でも多分酔った勢いで裸で寝ただけで多分やってはいない!泥酔すぎてそんなこと出来る状態じゃ」
「私あの後超フトモモ痛かったんだけどー、股とかマジ痛かったー。」
「うそだああああああああ!!!!」
笑いながら爆弾を落とすマナを、無意味理不尽にシバきたくなった。
別に、道徳に反して心傷付くような神経してないけどさ、思いもしなかった禁忌ってやつに酷くショックを受ける。
「………近親相姦はどーでもいいが、マナさんに手を出してた事実は見逃し難いぞルナティス、土下座しながら切腹しろ。」
「土下座で腹切りって難しいし!いや、しないし!っていうかどーでもいいのはそっち!?」
「まーまー、シェイディ、これでも一応私の弟なんだ、大目に見てくれたまえ。」
「マナさんもマナさんだ!俺がいたのにルナティスと…っ」
「いや、お前と付き合う前だからな?」
僕はうちひしがれながら、ヒショウの方を見てみた。
一瞬、こちらを横目に見ていた彼と目が合う、が
目を反らされた。
Σ(;゜Д゜;;)
「ヒショウ…!無意識だったんだ!不可抗力だったんだ!知らなかったんだ!見捨てないでー!!」
「いや、別に…」
ヒショウはマナの方をちらっと見てから、溜め息をついた。
『やっぱりルナティスもあーゆうスタイルのいい女がいいんだろうな、乳とか』とか言っているような気がして思わず慌てる。
「確かにマナみたいにボリュームあるスタイルはタイプだけどヒショウに比べたらスッポンだから!ヒショウみたいに優しくて綺麗で細くて感度いいのとかさいぶほっ」
僕の褒めちぎりは顎への衝撃で切れた。
足を組み換え様に蹴り上げられたらしい。
……いや、怒られるの分かってたけどね、分かって欲しかったから。
ぐるりと視界は回転して、僕の意識も暗転していった。
「…大体、嘘だろう。」
ヒショウの呟きに、気絶したルナティスを介抱していたセイヤが小首を傾げる。
「マナがお前にやられた、って話。」
「え?」
ヒショウははっきりとそう言いきるが、その根拠はどこに?
当人でさえ否定しきれなかった事実を何故ヒショウが?とセイヤは怪訝な顔で訴え続けている。
「昔、皆で盛大に飲んだ時のことだろ。お前とマナがあまりに酒臭かったから二人まとめて部屋に押し込んだ。で、そのあと心配になって部屋覗いたら二人して吐いてたから、俺が汚れた服脱がして二人をベッドに押し込んだ。」
ルナティスにとってはありがたい事実を、当のルナティスは気絶して聞き逃している。
「なんだ、そうゆうことですか。」
「そうゆことなんだな」
「お前が言うな、マナ」
「でも、だからって裸にしなくてもよかったんじゃ?」
「裸にはしてない、ルナティスは下は履いてたしマナには肌着を着せたぞ?」
「………え、じゃあ…?」
何故ルナティスは二人とも裸だったと記憶していたのか。
その理由に悩んだのは数秒だった。
その場にいた者の視線が、マナに集まる。
「てへっ」
マナは自分の頭を拳でコツンッと叩いて舌を出した。
美人だけあってそのかわいらしい動作は不快なものでは決してなかったが、皆を呆れさせた。
そんなことは露知らず、ヒショウの足元に倒れるルナティスは夢の中で神に祈りを捧げているようだ。
「なあ、リク」
「なに!?なに!!?」
名前を呼ばれたのがそんなに嬉しいのか、リクは尻尾があったらちぎれんばかりに振り回しているだろう勢いで喜ぶ。
喜ぶのはいいが、その手にある牛乳を零すなよ。牛乳って零すとクセエんだから。
「お前、写真撮る時、どこまでいける。」
「ん?撮影の仕事?」
「まーな。」
「どこまで、っていうと?」
「露出。」
後ろでチヒロが飲んでた何かを吹いた。
すかさずGがふきんを取ってテーブルを拭きながら彼女の背中を摩ってる。
当のリクはというと気にした様子もなく真面目に考えている様子。
コイツ、恥ってもんがあんまないからな。
「パンツ一丁は嫌だ。全裸はOK。」
「成る程、ハンパに脱がされる位なら全裸を選ぶか、男らしいじゃねーか。」
「そっ、それほどでもないでありますっ!」
照れてにやけているリク、今ならきっとヌード写真やらせても文句は言わないに違いない。
「でも僕の裸なんか見て喜ぶ人いないよ?汚いもん。」
汚いっつーのは体格とか体毛とかの話じゃなくて、事故で負った怪我のことを言っているのだろう。
「いや、ドSは喜ぶんじゃねーかと思って。」
そう言って俺はある雑誌を彼に見せた。
それを見たリクは、
流石に固まって涙目になってきた。
それを覗き込んだGは、流石に顔をしかめて、チヒロは思わず顔を背けた。
まあ、なにかと言えばぶっちゃけアブノーマルなエロ本のモデル募集欄なんだが。
「これ、露出とかそういう問題じゃない!!」
「お前、そーゆーの好きじゃ」
「好きじゃないっ!SAIのばかーっ!!」
走り去った扉の向こうで
「そんなSAIが好きな僕のばかーっ!!!」
とか言ってるあたりこれからの人間関係に問題はないだろう。
「SAIさん…」
静寂が立ち込めた部屋で、チヒロが控えめに俺に声をかけてくる。
まーこっちもなんか深刻な顔しちゃって。
「ジョーダンだよ、ジョーダン。」
「いえ、そうじゃなくて」
「ん?」
「リクが…事故で酷いめに遭ったのに、これは…ちょっと…」
俺らの間で「事故」といえばリクが足や指や声を失い、頭のネジが外れた事件のこと。
詳しくはもう俺だって思い出したくもないが、リクは拉致されたうえに暴行を受けた。
暴行、じゃ生易しい。
殺されかけた。
いくら冗談だからってそれを思い出させるようなことをさせようとするのは酷い、チヒロはそういいたいんだろう。
「リクにそのモデルをやらせたいんじゃなくて」
脇からボソリとG。
「SAIがリクにそーゆーことをやりたかっただけなんじゃないのか。」
「は!?」
チヒロがGの発言に思わず口を開けたまま固まった。
おもろいな。
「毎回毎回、お前の観察には恐れ入るよ。」
「最近お前がリクをただ突っぱねてるだけじゃないのは分かってたし、もともとお前はそうゆう性癖だしな。」
「愛情表現だ、愛情表現。」
段々俺とGの会話の意味が分かってきたらしく、チヒロがムカついた顔になってきた。
女の嫉妬は怖いからな、後でテキトーにフォローしておこう。
まあつまりは、俺も徐々にアイツの直球な愛情に心を許してきた、ってことかな。
ただし、だったら俺の性癖も理解してみろ、ってわけであの本を見せてみたわけだ。
あとあいつが真性マゾじゃないことを確かめたかったし。
「アイツがマゾだったらソッコーお断りだからな!」
「変態…」
「SAIさん…」
は?何を今更。
このグループの中に方向性の違いはあっても変態じゃないやつなんていないだろ?
「なに!?なに!!?」
名前を呼ばれたのがそんなに嬉しいのか、リクは尻尾があったらちぎれんばかりに振り回しているだろう勢いで喜ぶ。
喜ぶのはいいが、その手にある牛乳を零すなよ。牛乳って零すとクセエんだから。
「お前、写真撮る時、どこまでいける。」
「ん?撮影の仕事?」
「まーな。」
「どこまで、っていうと?」
「露出。」
後ろでチヒロが飲んでた何かを吹いた。
すかさずGがふきんを取ってテーブルを拭きながら彼女の背中を摩ってる。
当のリクはというと気にした様子もなく真面目に考えている様子。
コイツ、恥ってもんがあんまないからな。
「パンツ一丁は嫌だ。全裸はOK。」
「成る程、ハンパに脱がされる位なら全裸を選ぶか、男らしいじゃねーか。」
「そっ、それほどでもないでありますっ!」
照れてにやけているリク、今ならきっとヌード写真やらせても文句は言わないに違いない。
「でも僕の裸なんか見て喜ぶ人いないよ?汚いもん。」
汚いっつーのは体格とか体毛とかの話じゃなくて、事故で負った怪我のことを言っているのだろう。
「いや、ドSは喜ぶんじゃねーかと思って。」
そう言って俺はある雑誌を彼に見せた。
それを見たリクは、
流石に固まって涙目になってきた。
それを覗き込んだGは、流石に顔をしかめて、チヒロは思わず顔を背けた。
まあ、なにかと言えばぶっちゃけアブノーマルなエロ本のモデル募集欄なんだが。
「これ、露出とかそういう問題じゃない!!」
「お前、そーゆーの好きじゃ」
「好きじゃないっ!SAIのばかーっ!!」
走り去った扉の向こうで
「そんなSAIが好きな僕のばかーっ!!!」
とか言ってるあたりこれからの人間関係に問題はないだろう。
「SAIさん…」
静寂が立ち込めた部屋で、チヒロが控えめに俺に声をかけてくる。
まーこっちもなんか深刻な顔しちゃって。
「ジョーダンだよ、ジョーダン。」
「いえ、そうじゃなくて」
「ん?」
「リクが…事故で酷いめに遭ったのに、これは…ちょっと…」
俺らの間で「事故」といえばリクが足や指や声を失い、頭のネジが外れた事件のこと。
詳しくはもう俺だって思い出したくもないが、リクは拉致されたうえに暴行を受けた。
暴行、じゃ生易しい。
殺されかけた。
いくら冗談だからってそれを思い出させるようなことをさせようとするのは酷い、チヒロはそういいたいんだろう。
「リクにそのモデルをやらせたいんじゃなくて」
脇からボソリとG。
「SAIがリクにそーゆーことをやりたかっただけなんじゃないのか。」
「は!?」
チヒロがGの発言に思わず口を開けたまま固まった。
おもろいな。
「毎回毎回、お前の観察には恐れ入るよ。」
「最近お前がリクをただ突っぱねてるだけじゃないのは分かってたし、もともとお前はそうゆう性癖だしな。」
「愛情表現だ、愛情表現。」
段々俺とGの会話の意味が分かってきたらしく、チヒロがムカついた顔になってきた。
女の嫉妬は怖いからな、後でテキトーにフォローしておこう。
まあつまりは、俺も徐々にアイツの直球な愛情に心を許してきた、ってことかな。
ただし、だったら俺の性癖も理解してみろ、ってわけであの本を見せてみたわけだ。
あとあいつが真性マゾじゃないことを確かめたかったし。
「アイツがマゾだったらソッコーお断りだからな!」
「変態…」
「SAIさん…」
は?何を今更。
このグループの中に方向性の違いはあっても変態じゃないやつなんていないだろ?
まるでぬるま湯に浸かるような肌に心地良い陽気が差し込む。
こんな温かな空気に抱かれれば睡魔に誘われもするだろう。
犬や猫のような小動物が寝そべり静かにうたた寝するのが似合う午後、グローリィの膝にて眠るのはそれではなく若いアサシン、もちろんルァジノールだ。真っ白な髪に温かな光が射し眩しく輝く。
彼が人前でも警戒を解けるようになったのは珍しいことではない。グローリィを始め何名も名前をあげられる、敵ではないと知れば彼は容易に警戒を解けるようになった。
しかしこんな午後にうたた寝するのは珍しい。
春の陽気のせいだろうか、瞼を重そうにしていたジノに、ひざ枕を知らなかったらしい彼に、提案してあっさりと寝付かせたのは数分前のことだ。
「良い夢を見ていますか、ジノ」静かに問い掛けても返事はない、余程深く寝入っている様子。
寝所でさえ微かな物音に跳び起きていた彼が深い眠りを覚えたというのは良い傾向だと思う。
そっと柔らかな白髪を指先で撫でた。
膝を愛しい人に占拠され、眠りの空気が取り巻く中にいて眠くならないはずはない。
「私は…」
しかし
「そろそろ、後ろから刺さる殺気が悪夢になって出てきそう…かな…」
子供なら泣き出し、大人なら固まり、動物なら逃げ出しそうな殺気を放ち、後ろから首筋に刃を突き付けてくるアサシンがいる。
どうやらグローリィの代わりに仕事に出ているルナティスから伝言を預かってきたらしい。
暗殺者と冒険者という違いはあれど同じ「アサシン」という称号を持つ立場であるヒショウにとってルァジノールは後輩であり弟か息子のような感情さえも持つ。
そんな彼に危険が迫ればヒショウ身体を張る。つまり現在危険であると見なされたのはグローリィで、先刻からずっとこんな調子で刃物を突き付けてきている。
それなのに何か文句の一つでも言おうとすれば
「静かにしろ、ジノが起きる。」
この状況でつまり膝の上のルァジノールを起こすなと言う。
「鬼ですか貴方。」
かと言っても彼は良識ある人間だと理解している。
ヒショウがそっくなくあたれるのは彼の恋人たるルナティスか、グローリィくらいのものだ。
目の前で恋人掠奪宣言をしたことで目の敵にされたのがきっかけとはいえ、ヒショウが素で対応する数少ない人間の内の一人に入っているのだと思えば気分は悪くない。
「先日、ジュノスというリキュールが手に入ったのですが」
本当は、好きでもない実家の力で取り寄せさせた。
ジュノーの特産にしようと現地の若者が開発したらしいのだが、新しくてまだ流通に乗っていない上に作れる数に限りがある珍しい代物。
それをグローリィ自身はそんなに興味はなかったし詳しく知らないのだが、ヒショウが気にかけていたというのは知っている。
「よかったら飲みますか。」
「………。」
ここで飲むと言えば自然とカタールを下げなければならなくなる。
しかし冷静を装った目が揺らいで唇が何か言いたげに緩められているのが面白かった。
ヒショウにとってグローリィが素で向き合える人間なら、グローリィにとってヒショウは心から興味を持てる人間だった。からかい甲斐があるし彼の造形の整った顔は好きだ。
また、自分が絶対に落とせない人間だと知っているからこそ
「お代はキス一回で良いですよ」
ふざけて言い寄れるというものだ。
「俺の愛刀とのキスだったら喜んで」
「…貴方、本当に近頃ドSですね。」
苦笑いするグローリィに怒りを見せ付けるようにカタールの刃先で肌を撫でる。
「……。」
それは脅しというには優しいものだと思う。
剣先でありながら刃を立てず剣の腹で肌を押すように撫でるだけ。
皮も切れないような脅し。
思わず笑いそうになる。
「…この子とキス、一回ですよね」
そう言うとヒショウは心底怪訝な顔をした。この子、とは一体誰を指すのか。キスを、と示したのはヒショウが手にしているカタールしかない。
つまりはそういうことだった。少し身体をずらして、首を傾けて唇をカタールに寄せて見せた。
ぎょっとしたものの、咄嗟にカタールを引いてしまわなかったのは流石というべきか。
既にカタールの刃先はグローリィの口の中にあったのだから、引いていたら彼の舌や唇を傷つけてしまうところだ。
刃に沿って舌を滑らせ、逃がさないと刃の反対を指で押さえる。
刃で噛まれて鳴った僅かな唾なりがカタールの声にも思えた。
ヒショウはどうにも動かせなくなり、奇行にでているグローリィをせめて傷付けないようにカタールを固定する。
「……もういい。」
ニヤリと笑みながらヒショウを見上げる、まるで挑発されるようだったがそれでも動けない。
遂に彼は根を上げた。
「分かったから、やめろ。」
放されたカタールは尖端だけなぶられ唾液にうっすらと濡れていた。
ヒショウは潔癖だと彼の恋人が言っていた気がしたので開放ついでに法衣の袖で拭ってやる。
もう脅す気も失せたらしく、カタールは腰の鞘に収められてカチンと小さく鳴いた。
「……では、私はまだジノといたいので」
少し彼の眠りが浅くなってきているようだが、それを猫を寝かしつけるように撫でてやる。
「夜、ルナティスも帰ってくる頃にそちらにお邪魔しますよ。」
「……。」
「警戒しなくても良いですよ。ジノに嫌な思いさせたくないのは、誰よりも私なんですから。」
まだ少し不満を残しながらも彼は背を向けて渋々といった様子で部屋を後にする。
彼がいなくなって、やっとグローリィにも眠気誘う温かなな日差しが戻ってきたように思う。
けれど少し寂しくも思う。
グローリィにとって彼は他にないタイプの人間で、他にない自分を晒せる人間だ。
結局は相手が面白いとか相手が良いとかではなく、その相手に接している自分を見るのが面白いのだから、どこまでもグローリィには我しかないのだが。
「………。」
その点、今膝の上にいる青年には着飾れない。
自分が分からない。
ただ愛しい。
優しくしたい。
優しい時間を与えたいから、今も起こさないように気を使う。
見返りなど、求めずに。
これもある意味では無償の愛と言えるだろうか?聖職者でありながら務めないこの私が!、そう自身で思いながら笑ってしまう。
自然と唇を突いて溢れるその言葉は
「主よ、私は貴方より貴方の息子を愛してしまいます。」
愛の告白でありながら
「貴方が許される者を許す方ならばどうか」
背徳に塗れた懺悔
「貴方ではなくその息子にのみ祈りたがる私をお許し下さい。」
しかしその瞳には懺悔の気配はなく、心底愉しそうで
「ただし、私は一心に祈りましょう、誰よりもこの神に捧げましょう。誰にも成せなかったような目に見える程の信仰をしましょう。そしてお許し下さい、誰もが不純だと指差す私の信仰を、しかしこの思いは何よりも純粋なのです。
__amen.」
祈りもどこか押し付けがましく聞こえた。
そして祈る為に組んだ指はルァジノールの髪を絡めとっているのだ。
まるで逃がさないと捕えるように
何もかもが矛盾する、この青年の前では
何も分からなくなり、そして
少しずつ狂っていくのだ。
こんな温かな空気に抱かれれば睡魔に誘われもするだろう。
犬や猫のような小動物が寝そべり静かにうたた寝するのが似合う午後、グローリィの膝にて眠るのはそれではなく若いアサシン、もちろんルァジノールだ。真っ白な髪に温かな光が射し眩しく輝く。
彼が人前でも警戒を解けるようになったのは珍しいことではない。グローリィを始め何名も名前をあげられる、敵ではないと知れば彼は容易に警戒を解けるようになった。
しかしこんな午後にうたた寝するのは珍しい。
春の陽気のせいだろうか、瞼を重そうにしていたジノに、ひざ枕を知らなかったらしい彼に、提案してあっさりと寝付かせたのは数分前のことだ。
「良い夢を見ていますか、ジノ」静かに問い掛けても返事はない、余程深く寝入っている様子。
寝所でさえ微かな物音に跳び起きていた彼が深い眠りを覚えたというのは良い傾向だと思う。
そっと柔らかな白髪を指先で撫でた。
膝を愛しい人に占拠され、眠りの空気が取り巻く中にいて眠くならないはずはない。
「私は…」
しかし
「そろそろ、後ろから刺さる殺気が悪夢になって出てきそう…かな…」
子供なら泣き出し、大人なら固まり、動物なら逃げ出しそうな殺気を放ち、後ろから首筋に刃を突き付けてくるアサシンがいる。
どうやらグローリィの代わりに仕事に出ているルナティスから伝言を預かってきたらしい。
暗殺者と冒険者という違いはあれど同じ「アサシン」という称号を持つ立場であるヒショウにとってルァジノールは後輩であり弟か息子のような感情さえも持つ。
そんな彼に危険が迫ればヒショウ身体を張る。つまり現在危険であると見なされたのはグローリィで、先刻からずっとこんな調子で刃物を突き付けてきている。
それなのに何か文句の一つでも言おうとすれば
「静かにしろ、ジノが起きる。」
この状況でつまり膝の上のルァジノールを起こすなと言う。
「鬼ですか貴方。」
かと言っても彼は良識ある人間だと理解している。
ヒショウがそっくなくあたれるのは彼の恋人たるルナティスか、グローリィくらいのものだ。
目の前で恋人掠奪宣言をしたことで目の敵にされたのがきっかけとはいえ、ヒショウが素で対応する数少ない人間の内の一人に入っているのだと思えば気分は悪くない。
「先日、ジュノスというリキュールが手に入ったのですが」
本当は、好きでもない実家の力で取り寄せさせた。
ジュノーの特産にしようと現地の若者が開発したらしいのだが、新しくてまだ流通に乗っていない上に作れる数に限りがある珍しい代物。
それをグローリィ自身はそんなに興味はなかったし詳しく知らないのだが、ヒショウが気にかけていたというのは知っている。
「よかったら飲みますか。」
「………。」
ここで飲むと言えば自然とカタールを下げなければならなくなる。
しかし冷静を装った目が揺らいで唇が何か言いたげに緩められているのが面白かった。
ヒショウにとってグローリィが素で向き合える人間なら、グローリィにとってヒショウは心から興味を持てる人間だった。からかい甲斐があるし彼の造形の整った顔は好きだ。
また、自分が絶対に落とせない人間だと知っているからこそ
「お代はキス一回で良いですよ」
ふざけて言い寄れるというものだ。
「俺の愛刀とのキスだったら喜んで」
「…貴方、本当に近頃ドSですね。」
苦笑いするグローリィに怒りを見せ付けるようにカタールの刃先で肌を撫でる。
「……。」
それは脅しというには優しいものだと思う。
剣先でありながら刃を立てず剣の腹で肌を押すように撫でるだけ。
皮も切れないような脅し。
思わず笑いそうになる。
「…この子とキス、一回ですよね」
そう言うとヒショウは心底怪訝な顔をした。この子、とは一体誰を指すのか。キスを、と示したのはヒショウが手にしているカタールしかない。
つまりはそういうことだった。少し身体をずらして、首を傾けて唇をカタールに寄せて見せた。
ぎょっとしたものの、咄嗟にカタールを引いてしまわなかったのは流石というべきか。
既にカタールの刃先はグローリィの口の中にあったのだから、引いていたら彼の舌や唇を傷つけてしまうところだ。
刃に沿って舌を滑らせ、逃がさないと刃の反対を指で押さえる。
刃で噛まれて鳴った僅かな唾なりがカタールの声にも思えた。
ヒショウはどうにも動かせなくなり、奇行にでているグローリィをせめて傷付けないようにカタールを固定する。
「……もういい。」
ニヤリと笑みながらヒショウを見上げる、まるで挑発されるようだったがそれでも動けない。
遂に彼は根を上げた。
「分かったから、やめろ。」
放されたカタールは尖端だけなぶられ唾液にうっすらと濡れていた。
ヒショウは潔癖だと彼の恋人が言っていた気がしたので開放ついでに法衣の袖で拭ってやる。
もう脅す気も失せたらしく、カタールは腰の鞘に収められてカチンと小さく鳴いた。
「……では、私はまだジノといたいので」
少し彼の眠りが浅くなってきているようだが、それを猫を寝かしつけるように撫でてやる。
「夜、ルナティスも帰ってくる頃にそちらにお邪魔しますよ。」
「……。」
「警戒しなくても良いですよ。ジノに嫌な思いさせたくないのは、誰よりも私なんですから。」
まだ少し不満を残しながらも彼は背を向けて渋々といった様子で部屋を後にする。
彼がいなくなって、やっとグローリィにも眠気誘う温かなな日差しが戻ってきたように思う。
けれど少し寂しくも思う。
グローリィにとって彼は他にないタイプの人間で、他にない自分を晒せる人間だ。
結局は相手が面白いとか相手が良いとかではなく、その相手に接している自分を見るのが面白いのだから、どこまでもグローリィには我しかないのだが。
「………。」
その点、今膝の上にいる青年には着飾れない。
自分が分からない。
ただ愛しい。
優しくしたい。
優しい時間を与えたいから、今も起こさないように気を使う。
見返りなど、求めずに。
これもある意味では無償の愛と言えるだろうか?聖職者でありながら務めないこの私が!、そう自身で思いながら笑ってしまう。
自然と唇を突いて溢れるその言葉は
「主よ、私は貴方より貴方の息子を愛してしまいます。」
愛の告白でありながら
「貴方が許される者を許す方ならばどうか」
背徳に塗れた懺悔
「貴方ではなくその息子にのみ祈りたがる私をお許し下さい。」
しかしその瞳には懺悔の気配はなく、心底愉しそうで
「ただし、私は一心に祈りましょう、誰よりもこの神に捧げましょう。誰にも成せなかったような目に見える程の信仰をしましょう。そしてお許し下さい、誰もが不純だと指差す私の信仰を、しかしこの思いは何よりも純粋なのです。
__amen.」
祈りもどこか押し付けがましく聞こえた。
そして祈る為に組んだ指はルァジノールの髪を絡めとっているのだ。
まるで逃がさないと捕えるように
何もかもが矛盾する、この青年の前では
何も分からなくなり、そして
少しずつ狂っていくのだ。
泣きたくなるような虚しさと背徳感。
「…ごめん。」
まだ上がった息で呟き、茫然自失する。
見下ろした手には白い汚れ。
涙は出ないが、それを見る内に自分に腹が立ってくる。
かつては彼を汚したくないからと自分の身体を捧げたのに、彼を救い出した今は自分だけのものにした気になって…
けれど彼の心は自分の元にはない現実に、焦燥する。
渇く心は妄想でごまかすしかなかった。
「…最低」
自嘲して手ぬぐいに手を押し付ける。
「最低っていうのは多分相手の気持ちを考えない奴のことよ?」
「!!!??」
不意にすぐ隣から聞き慣れた声がして、心臓が跳ね上がった。
そして慌てて逃げるように下がってズボンを引き上げる。
「慌ててるとチャックに挟むわよ?」
「ちょっ、ヒショウいつからっ」「何だか最近とっても元気がないルナが気になって、待ち伏せてたの。」
「つまり、始めからいたのか」
反省の色無く、思い人の体は別人の意思に動かされて笑う。
さっきまで頭の中で散々に抱いた身体、でも中は頭の中で抱いていた人とは別人なのだ。
開き直っていつも通りでいることにした。
「セクハラです。覗きは犯罪です。」
「ごめんっ」
「…見なかった事にして。」
苦笑いしてそう頼むと、ヒショウは少し悲しそうな顔をする。
「ルナ…私ね、ヒショウ…いえ、アスカがやっぱり嫌いよ。」
「……。」
「ルナにあんなに大事にされているのに酷いわ。重いもの抱えて、私なんていう謎な因子までいて、大変なのは分かるけど…ルナを苦しめ過ぎよ、ルナの気持ちに気付いてもいいものでしょうに。」
「僕が勝手に気持ちを押し付けてるだけだ。気付かれてアスカに負担を増やすのも、困るな。」
だから、今のままでいい。
そう笑うルナティスにヒショウが抱き着く。
首に腕を回し、優しく抱きしめる。
「ん?」
ルナティスはわけも分からずその肩を労うように叩いて返す。
けれどそれへの反応は、それでは不満だとばかりに押し倒した。
そして彼のアコライトの法衣に手をかけてくる。
「ちょっ、ヒショウ、待った待ったっ!セクハラ反対っ!」
「本気よ」
性急な手つきを一旦止めて、半ば睨むようにルナティスを見下ろす。
「ルナ、私を抱いていいよ」
ヒショウが邪魔そうに髪をかき上げて、真っ直ぐルナティスを見つめる。
「…な、何言って…」
「私はアスカの心はあげられない、けど身体だけなら」
それは究極の誘惑だった。
当人ではないけれど、同じ身体を当人には知られずに手に入れられる。
きっとアスカに負担はあるだろうが、二人の関係は崩さずにいられる。
ルナティスが知らん顔をしていればその事実はしられない。
一度だけなら…
指を延ばし、白い喉に触れる。
自ら衿の合わせを開いている彼の手を掴み、引き寄せて身体の位置を入れ換える。
「…っ」
身体を重ねる。
顔を掌で包み込んで、唇を重ねる。
その直前で、ルナティスは動きを止めた。
ヒショウはただ優しげに微笑んでいる。
“彼女”は抱いて欲しいわけじゃない。
“アスカの身体”をルナティスに捧げてやりたいだけ。
結局はどこまでもルナティスの独りよがり。
「ルナ?」
涙が溢れた。
情けない。情けなくて、寂しい。ヒショウに触れていた指先から血の気が失せて熱は四散し、抱く気も失せる。
冷静になれば自分に再び嫌悪した。
「ごめん。」
アスカにも、彼女にも。
謝って、ベッドから離れる。
独りだ。
孤独で死んでしまいそう。
泣き崩れてしまいそう。
身体が、冷たい。
愛しい人ではない誰かの体温がほしかった。
「ぎゃああああああっ!!!!???」
そして隣の同居人のベッドに潜り込み、翌朝にはシェイディの悲鳴がして、彼に殴り起こされた。
「…ごめん。」
まだ上がった息で呟き、茫然自失する。
見下ろした手には白い汚れ。
涙は出ないが、それを見る内に自分に腹が立ってくる。
かつては彼を汚したくないからと自分の身体を捧げたのに、彼を救い出した今は自分だけのものにした気になって…
けれど彼の心は自分の元にはない現実に、焦燥する。
渇く心は妄想でごまかすしかなかった。
「…最低」
自嘲して手ぬぐいに手を押し付ける。
「最低っていうのは多分相手の気持ちを考えない奴のことよ?」
「!!!??」
不意にすぐ隣から聞き慣れた声がして、心臓が跳ね上がった。
そして慌てて逃げるように下がってズボンを引き上げる。
「慌ててるとチャックに挟むわよ?」
「ちょっ、ヒショウいつからっ」「何だか最近とっても元気がないルナが気になって、待ち伏せてたの。」
「つまり、始めからいたのか」
反省の色無く、思い人の体は別人の意思に動かされて笑う。
さっきまで頭の中で散々に抱いた身体、でも中は頭の中で抱いていた人とは別人なのだ。
開き直っていつも通りでいることにした。
「セクハラです。覗きは犯罪です。」
「ごめんっ」
「…見なかった事にして。」
苦笑いしてそう頼むと、ヒショウは少し悲しそうな顔をする。
「ルナ…私ね、ヒショウ…いえ、アスカがやっぱり嫌いよ。」
「……。」
「ルナにあんなに大事にされているのに酷いわ。重いもの抱えて、私なんていう謎な因子までいて、大変なのは分かるけど…ルナを苦しめ過ぎよ、ルナの気持ちに気付いてもいいものでしょうに。」
「僕が勝手に気持ちを押し付けてるだけだ。気付かれてアスカに負担を増やすのも、困るな。」
だから、今のままでいい。
そう笑うルナティスにヒショウが抱き着く。
首に腕を回し、優しく抱きしめる。
「ん?」
ルナティスはわけも分からずその肩を労うように叩いて返す。
けれどそれへの反応は、それでは不満だとばかりに押し倒した。
そして彼のアコライトの法衣に手をかけてくる。
「ちょっ、ヒショウ、待った待ったっ!セクハラ反対っ!」
「本気よ」
性急な手つきを一旦止めて、半ば睨むようにルナティスを見下ろす。
「ルナ、私を抱いていいよ」
ヒショウが邪魔そうに髪をかき上げて、真っ直ぐルナティスを見つめる。
「…な、何言って…」
「私はアスカの心はあげられない、けど身体だけなら」
それは究極の誘惑だった。
当人ではないけれど、同じ身体を当人には知られずに手に入れられる。
きっとアスカに負担はあるだろうが、二人の関係は崩さずにいられる。
ルナティスが知らん顔をしていればその事実はしられない。
一度だけなら…
指を延ばし、白い喉に触れる。
自ら衿の合わせを開いている彼の手を掴み、引き寄せて身体の位置を入れ換える。
「…っ」
身体を重ねる。
顔を掌で包み込んで、唇を重ねる。
その直前で、ルナティスは動きを止めた。
ヒショウはただ優しげに微笑んでいる。
“彼女”は抱いて欲しいわけじゃない。
“アスカの身体”をルナティスに捧げてやりたいだけ。
結局はどこまでもルナティスの独りよがり。
「ルナ?」
涙が溢れた。
情けない。情けなくて、寂しい。ヒショウに触れていた指先から血の気が失せて熱は四散し、抱く気も失せる。
冷静になれば自分に再び嫌悪した。
「ごめん。」
アスカにも、彼女にも。
謝って、ベッドから離れる。
独りだ。
孤独で死んでしまいそう。
泣き崩れてしまいそう。
身体が、冷たい。
愛しい人ではない誰かの体温がほしかった。
「ぎゃああああああっ!!!!???」
そして隣の同居人のベッドに潜り込み、翌朝にはシェイディの悲鳴がして、彼に殴り起こされた。
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