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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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「馬鹿者が!!何のつもりだ!!俺に恩を売ったつもりか?!」

そんな訳がないだろう。
そう思いながらも言葉が出なかった。
驚くことがいろいろあったからだ。

「貴様がそんな腑抜けたことをする男だとは思わなかったぞ。」
珍しく怒りをあらわにして怒鳴る彼の姿に驚いたのも一つ。

「何だ、女のヒステリーかよ」
「クールかと思ったら可愛いんじゃねーの」
「隊長するより補佐でお茶くみしてる方が隊の役にたつんじゃねーの」
確かに彼は美しい成りをして女に見えないこともなく、からかわれたり虐げられることが多い。
だがそんなことに彼は一切反応しない。
女がおらずむさ苦しい場では、男でも小綺麗ならすぐに皆構いたがる。
下心があるにせよないにせよ、何かしら不満のぶつけ先にされる。
それを彼もよく分かっていた。

「くじ運で隊長候補に上がった出来損ない共が、この男の足元にも及ばぬくせに偉そうに俺に口を聞くな!!!!」

分かっていた筈なのに、いつも無視している日常的なからかいに反応しているのもまた驚いていることの一つ。
「……お前の怒りは最もだ。俺は騎士として、お前を侮辱したも同然だ。」
「ならばさっさと隊長候補除外に異議を申し立ててこい!」
「それは出来ない。」
「何故だ!お前は俺に勝った筈だ!」

隊長候補選抜試験で
対戦表が組まれ何度も戦う内に二人の対戦に至った。
だが戦っている内に、俺は彼の剣に限界がきていることに気付いた。
あまりにも早過ぎた、恐らくまたどこかの馬鹿の嫌がらせだった。

試験に使える剣は一本限り。
それを折れば、俺は晴れて隊長になれる。
だが彼は、剣が折れた限り他の試合で勝ってのし上がることはできない。

そう思えば、身体は自然と勝利を拒否した。
だが、さりげなく彼に勝利をなんて気の効いたことは出来ず
追い詰めた彼に振り下ろす筈の剣を脇に振り下ろし、石畳にたたき付けて自らの剣を折った。

だがそのことを不思議と悔しいと思うことはなく、また勝負をした時に彼を負かしたいと思うかというと…疑問になる。

「…俺の気持ちは変わらない。」

もし俺が隊長になれば、別の部所に移ることになる。
そうすれば彼と会うのは困難になる。

なれる自信はあった。
だが自ら剣を折り、その理由に気付いたら、もう隊長になりたいと思わなくなっていた。

「俺がなりたいのは、隊長などではなかった。」

そう言えば、彼自信の目標が過小評価されたと思ったのか、顔をしかめて腕を振り上げる。
手甲が外された拳が頬骨を砕く勢いで飛んできた。

首を痛めぬように耐えず受け身だけを取ったが、その様は実に情けなくなった。

「貴様の面など見たくない、お前を騎士などと思った俺が馬鹿だった!!」

彼は踵を返し、離れていく。
それでも、俺の瞼には彼の穏やかで神秘的な色彩が焼き付いて離れない。


俺を騎士から堕落させるのは俺の弱い心とお前の存在だというのに。
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前回落ちた試験から二年後、トップで青年は合格した。

試験待ちの一年の間にした自主訓練に比べれば、入隊後の訓練は甘く感じた。
訓練のスケジュールが終わる夜、彼には欠かさずやることがあった。

いつもの広場、暗闇にぼんやり浮かび上がる白い姿。
身体機能を抑制する特製のバンドや重りを白いシャツの上から締めていた。
それは互いに同じこと。

競うように全身に重りを足し、木の剣を一本持って競うのが彼らが同じ団に配属された初日から身についた日課だった。


「明日の出陣は、何番隊…だっ…」
打ち合え最中に交わす言葉。

切り出すのはたいていこちらからだが、普段無口な彼もこの間は「まだ余裕がある」といいたげに饒舌になる。

「1番…特攻する方だ。」
淡い色彩の容姿に似合わず声は低い。

「そうか、残念だ。」
「何」
彼の言葉の先は横一閃に払われた木刀を体を反らしてかわした為に途切れた。

「お前と共に戦いたかった。」
「…お前は、陽動隊か。」
「火付け隊だ。」
「要だ。しくじるなよ。」
「要ではない隊など…っいるか。」
「違い、ない」

得物を放すまいとしながら互いに皮の厚くなった手で必死に振るっていたが、限界の限界を向かえ、木刀を手放したのは…

「…初めて、勝った。」
初めて彼が敗北した姿を見た。
敗北を絵にするように、白い薄地のボトムを地につけて膝を付き、薄い黄土の瞳を伏せている。

だが彼は悔しそうな顔一つせずにじっと紅い髪を靡かせる騎士を見あげてきた。


「見事」
そう言い、鋭い眼差しながらも唇に笑みを浮かべた。


その瞬間、心臓が逆流した。

いや、ただ少し強い鼓動をしただけだ。
そんな異常があってたまるものか。

送られた賞賛に、礼も皮肉も返すことはできず、ただ固まってしまった。

「次期隊長を破ったんだ、喜ばないか。」
「……は?次期隊長?」

確かに彼は強いが、まだお互い入ったばかりの新人のようなものだ。
そんな話が立つはずがない。

「いずれ必ずなるさ。」

理想か。
寡黙で澄ました普段の彼から想像できず、つい笑ってしまった。
だが決して馬鹿にしたわけではない。

「笑うな。」

紅の髪の青年が笑うのを侮辱ととったか、彼は表情を削ぎ落とした。
それに激しい怒りが見える。
だが青年は笑う。
笑わずにはいられない。

「笑うさ、嬉しくてたまらないんだ…。」

騎士という誇り故に、皆常に気を張り詰めらせるのに。
青年の笑い顔は歳相応かそれ以下だ。

「俺という奴は…実力はやっと追い付き始めても、志はまだまだだった。」

単純に嬉しかったのだ、相手は自分と競いながらも眼差しは遥か遠くを見ている。
もっと大きな男だった。

「お前が隊長を目差すなら、俺は英雄になってやる」


胸を張ってそう宣言する。
そんな戦友を、次期団長という青年はポカンと見上げていた。




「……子供くさい。」


ぷちっ


「なら貴様もだああああ!!!」
出会いは入隊試験の会場。

1番危険を伴う最前線で戦う部隊。
だが愛国心の強い騎士はこぞってそこへ押しかけた。
そうでなくとも、出世を狙うならそこへ入り、生き残ることが条件だ。

今年の試験志願者100余名に対し合格者は6人いるかいないか。


緊張した会場で、皆が思い思いにトレーニングをして待機している。
彼も同じ様に木刀を構え、振るった。

緩やかな動きから段々と激しくなる剣先、腕の筋肉。

臓腑の様な紅の長い髪を揺らして。
小麦色の肌に段々と汗の玉が滲み出る。


「………。」

剣を振るいながら、真剣を部屋中に巡らせ、その広い部屋にいる全ての者を見た。

その中で“彼”はただ座っていた。
瞑想と睡眠を半々でしていたようだ。
思わず見つめたのは僅か5秒程。

その間に彼は目を開き、真っ先にこちらを見た。


淡い金の髪に雪原の様な肌。
どこか夢心地のようにけだるそうにしている。
だが色素が薄い黄土の瞳は信念そのもので出来ていた。



―――ああ、コイツは合格する。

それが初めて彼に感じたこと。
会場でただ一人動かないその男が、この場の誰よりも激しいオーラを発しているように見えたから。




思った通り、あの男は合格して自分は不合格した。
試験は年に一回だが受けられるのは二年に一回だ。
機会は再来年にまたくる。

「また受けるか。」

突然背後から声をかけられた。
振り返れば、全体的に淡い色の姿の騎士。

彼がそこにいたのは知っていたが、声をかけてくるとは。
近くで見れば、魂を食われるような眼力の強さよ。


「無論だ。俺に足りないのは何か分かっている。」
ここで試されるのは腕と信念と忠誠心と強靭な精神だ。
足りなかったのは…合格した彼にはあった、信念。
彼の存在が、自分に足りなかった者を教えてくれた。


「待つ。」

それだけ言って彼は合格者の集まる部屋へ向かった。



あの男が俺を待っている。
それを思うと全身の血が煮えたぎる。
この気持ち、この感覚、あの男と肩を並べる日を早く…
そう思えば心は固くなる。

不意に生まれた信念。
家族の為、友の為、国の為…どれも違う。
この胸に芽生えたのは、あの男と共に…という目標。



今なら合格できる気がした。
「マスター、ムナック帽が欲しいです。」

そんな一言から、また今日も慌ただしい日が始まる。


「………っ」
「マスター頑張ってー愛してるー」
「気の抜けた応援は止さぬか!!」

薄暗い洞窟を一人のウィザードが駆け抜ける。
その後ろを雪崩の如く大量の不死者達が追い掛けてくる。
その一匹一匹の姿は、ウィザードの隣に並んで走る者にそっくりだ。

同種なのだから当然だ。

「張るぞ、入りそびれるな」
「了解ッス」

互いに目配せした直後、ウィザードは足を止め振り返り、その背後にボンゴンが寄り添った。

「――セイフティウォール」
またその直後に二人の回りを鮮やかな防護壁が囲む。

「今日も素敵な高速詠唱ッスね」
そんなボンゴンの賛辞には耳も貸さず、ウィザードは次の呪文も紡いでいる。
その間に壁の周りを亡者が取り巻く。
中から見ると実に壮絶な光景である。

「――ロード・オブ・ヴァーミリオン!!!」
亡者を焼き尽くす天の炎が降り注いだのと、二人を守る壁が崩れたのは同時だった。



「本当に嫌ですね、ロボット化した冒険者って…馬鹿の一つ覚えのように一カ所に敵を集めて」
「馬鹿以前に中身がないからな」
ウィザードが身近にばらまかれた魔物達の落とし物を漁り、ボンゴンはそれを手伝い少し離れた場所の物を拾い集め、話していた。

「んー…ムナック帽ないッスね」
「そう簡単には出ぬか…」
荷物袋に収拾品を詰め込むボンゴンを見て、不意に罪悪感に襲われた。
思えば、彼もここにいた魔物なのだ。

「…お前、目の前で同類を焼かれて気分悪くならないのか。」

彼が立つその場所は、たった今焼けて地に還った仲間達がいたのに。

「いえ?むしろさっさとムナック帽だしやがれって感じッスけど。」
「………。」
この元不死者に繊細な心があると思った自分が間違いであった。

「マスター、俺達不死者は生来の怨念でこの世をさ迷うようになっただけッスから。何回も塵に返されるか退魔されてその力を失うまで、成仏出来ないもんデス。気にすることは何もないッスよ。」
「……怨念…」
「そ。俺も元は怨念の塊デスガ。」

まるで世間話のように淡々と話す様子に負の感情など見られない。
主人が不思議がる様子にボンゴンも気付き、少し笑ってみせた。

「俺はペットになる時に邪気を掃われたんで、危険は無いッスよ?」
「そんなことは分かっている。気になったのは…お前がどうして不死者となったかだ…。」

ただまるで“ボンゴン”という種族のように思えていた。
元は同じ人間で、生来の怨念から魔になってしまった存在。
分かっていたつもりだったが、実に悲しい者達だ。

付き合いの長いペットという肩書で傍に置いている彼も、その一人だということを忘れていた。


「…報われない恋で心中ってボンゴンムナックもいますがね、自分は殉死ッス。」
「…フェイヨンの、昔の風習か…」
「ええ、好きでもない王様と一緒に当たりくじに当たって、生き埋めッス。」



――― 何故だ

「マスター?」
「……っ」

目の前にいる者が死の間際に感じた恐怖のかけらも、自分は知らない。
だからこそ、想像すると恐ろしい。

「…マスター、泣いてくれるんスか。」

ウィザードは乱れかけた呼吸を一度止めて、吐き出した。
「殉死という風習が恐ろしかっただけだ!可哀相等と子供じみた理由ではない!それに涙ぐんだだけだ、まだ泣いていない!」
「その理由でも十分子供っぽいッスよ」

ボンゴンは笑い、遥か昔に体温も失ってしまった手で主人の頬に触れた。


「マスターの為なら、殉死出来たのに。」





「殉死など二度もするものではないだろう」
「そこにツッコミますか」
ウィザードは少しまだ気分が優れない様子だが、それでも歩き出した。
その後をボンゴンが追う。


「ところで、何故ムナック帽など欲しいのだ。」
「マスターに付けて、カップルということでマスターを頂こうかと。」
「帰るぞ」
「決断早っ」
天気は曇り。
いつ雨が降るかもわからない空模様だった。

あのアサシンが道端にしゃがみ込んでいた。
隣にはアコライトの女の子。
異色な組み合わせだが、不思議と絵になるのは何故だろうか。

見つからない所で、様子を伺っていた。
でもすぐ女の子は立ち上がって、彼から離れた。
そしてこちらへ来る。
俺は咄嗟に何もない方を見て、考え事してる散歩人のふりをした。

だが彼女とすれ違う瞬間、思わず息を呑んで彼女を見つめてしまった。

ただの平凡な女の子だ。
それが顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
俯いて顔を隠していたが、見えてしまった。



「おい」
「やほ」
「やほじゃねえ」

膝を抱え込むようにしてしゃがんでいるアサシンと、それをにらみつけて見下ろすバードがいる。

「さっきの女の子、なんだ。」
「妬いてるの?」
「泣いてたぞ」
「女泣かせなイイ男?」
「ふざけてんなよ!お前が泣かせたんだろ!」

怒鳴り、掴み掛かってもアサシンはにこにこ笑っている。
だがそれで身体を引かれ、曲げた膝の奥、腹の上にあるものがバードの目に入った。
一瞬、ただ驚き固まった。
そこにいるのは半目を開けてぐったりとした猫らしき物体。
ぱっと見はぼろ雑巾に見えてしまった。

「なんだ、それ」
「猫。さっき死んだ。」

猫は体の下にアサシン用マフラーを敷かれてベッドに寝ているようだ。

「もう助からないからヒールいらないって言ったのにね。さっきの子がヒールしちゃって苦しいの長引かせちゃった。」

その声には女の子を責める感情も、猫を労る感情もない。
まるでただの世間話。

「……。」

なんと言っていいか分からず、バードは立ちすくんでいた。
いつもただ気持ち悪いだけのアサシンなのに、その時は少し違って見えた。

やはりまともには見えないが、まるで小動物の死を悲しむ子供。
だが泣かない、悲しんですらいない。

笑っている、いつも通りに。
つまり何も感じていないのだ。

「なんで、そうやってるんだ?」

マフラーを汚して、肌寒い道端に座って、猫の死を看取って。

「コイツ、飼い猫だから。」
「野良猫ならしないのか」
「野良は人間に興味ないだろ。一人で死ぬのは覚悟してる。」

だが今そこで息絶えた猫は違う。

「最後に飼い主を恋しがったか怨んだかは分からないけど、人の体温は欲しかっただろーし。」

そう言いながら、彼は猫の胸や喉を指先で探り、死んだことを再確認する。

「………案外……優しいんだな。」

そう呟くのにもかなり抵抗があった。
大嫌いな相手だ、本当なら口をききたくもなかった。
でもそう思ったのだから仕方ない。

しかし彼は首を横に振った。

「あんたは、歌うことは好き?」
「?」

突然振られてすぐに認識できなかったが、遅れて頷いた。

「でも毎日毎日、歌い続けさせられて、歌は積もりに積もって後も先も見えなくなったら、歌うのも嫌にもなってくるだろ。」

頷いた。
歌い人の魅力は自由なところだろう。
まだ無限にあるであろうものの美しさを探し、歌うのがいい。

「それと同じ。俺はそうやって殺すことが嫌いになった。」


それはつまり

飽きる程に、彼が人を殺したという事実。
だが何となく想像もできて驚かなかった。
こんな変態がまともな人間なはずもない。

「なら俺に殺してくれというのも嫌になれ。」
「それは別物。」
「殺すことが嫌になったんだろ。ならまともになれよ。殺されたいなんてもっと馬鹿らしい。」



アサシンが笑う。
さっきまでの無感情とは違う。
いつも殺してと懇願するときにしている、底の知れない不気味な目だった。

彼はマフラーで猫を包み、抱え上げた。

「じゃあ、あんたに質問。」



―あんたが歌うことに飽きた時、願うことは何だと思う?




音をたてて空から雫が落ちてくる。
その音、雫の描く波紋
それだけで美しい歌の一つになるだろう。
慈しむべきそれは、自分をいずれ変える。



自身が歌になりたい。
それが答え。
伝わる歌にも新しい歌にも、夢物語のような自伝の歌がいくつもある。
皆、同じことを考えたのだ。

あの男も既に変わった。
そして自伝をのこした詩人達のように、願いを果たそうとしている。
それだけのことなのか。



―歌うことに飽きれば、歌われることを願う

―殺すことに飽きれば、殺されることを願う


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