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前回落ちた試験から二年後、トップで青年は合格した。

試験待ちの一年の間にした自主訓練に比べれば、入隊後の訓練は甘く感じた。
訓練のスケジュールが終わる夜、彼には欠かさずやることがあった。

いつもの広場、暗闇にぼんやり浮かび上がる白い姿。
身体機能を抑制する特製のバンドや重りを白いシャツの上から締めていた。
それは互いに同じこと。

競うように全身に重りを足し、木の剣を一本持って競うのが彼らが同じ団に配属された初日から身についた日課だった。


「明日の出陣は、何番隊…だっ…」
打ち合え最中に交わす言葉。

切り出すのはたいていこちらからだが、普段無口な彼もこの間は「まだ余裕がある」といいたげに饒舌になる。

「1番…特攻する方だ。」
淡い色彩の容姿に似合わず声は低い。

「そうか、残念だ。」
「何」
彼の言葉の先は横一閃に払われた木刀を体を反らしてかわした為に途切れた。

「お前と共に戦いたかった。」
「…お前は、陽動隊か。」
「火付け隊だ。」
「要だ。しくじるなよ。」
「要ではない隊など…っいるか。」
「違い、ない」

得物を放すまいとしながら互いに皮の厚くなった手で必死に振るっていたが、限界の限界を向かえ、木刀を手放したのは…

「…初めて、勝った。」
初めて彼が敗北した姿を見た。
敗北を絵にするように、白い薄地のボトムを地につけて膝を付き、薄い黄土の瞳を伏せている。

だが彼は悔しそうな顔一つせずにじっと紅い髪を靡かせる騎士を見あげてきた。


「見事」
そう言い、鋭い眼差しながらも唇に笑みを浮かべた。


その瞬間、心臓が逆流した。

いや、ただ少し強い鼓動をしただけだ。
そんな異常があってたまるものか。

送られた賞賛に、礼も皮肉も返すことはできず、ただ固まってしまった。

「次期隊長を破ったんだ、喜ばないか。」
「……は?次期隊長?」

確かに彼は強いが、まだお互い入ったばかりの新人のようなものだ。
そんな話が立つはずがない。

「いずれ必ずなるさ。」

理想か。
寡黙で澄ました普段の彼から想像できず、つい笑ってしまった。
だが決して馬鹿にしたわけではない。

「笑うな。」

紅の髪の青年が笑うのを侮辱ととったか、彼は表情を削ぎ落とした。
それに激しい怒りが見える。
だが青年は笑う。
笑わずにはいられない。

「笑うさ、嬉しくてたまらないんだ…。」

騎士という誇り故に、皆常に気を張り詰めらせるのに。
青年の笑い顔は歳相応かそれ以下だ。

「俺という奴は…実力はやっと追い付き始めても、志はまだまだだった。」

単純に嬉しかったのだ、相手は自分と競いながらも眼差しは遥か遠くを見ている。
もっと大きな男だった。

「お前が隊長を目差すなら、俺は英雄になってやる」


胸を張ってそう宣言する。
そんな戦友を、次期団長という青年はポカンと見上げていた。




「……子供くさい。」


ぷちっ


「なら貴様もだああああ!!!」
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