*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)
*小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。
*かなりぶつ切りです。
*携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)
*携帯にも対応しています。
*コメントでの感想なども歓迎です。
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一瞬、目に入り気にかかったが、何故気にかかったかも分からなかったから視線を外した。
視線を戻した先では何故かレイヴァとルナティスが腕相撲をしている。
確かルナティスが腕相撲したいと言い出したが彼に叶うのはレイヴァくらいしかいない、よって仕方なくレイヴァが承諾して勝負が始まるところだ。
二人が押したり押されたりの攻防を繰り返していると、背後に人が寄ってきた気配を感じた。
振り返ると、先ほど一瞬だけ気になって視線を止めたハンターの女性だった。
彼女はまだ声も掛けていないのにヒショウを見て「やっぱり」と言いながら笑顔を浮かべた。
「私のこと、覚えてる?」
安っぽい軟派に使われそうなことを言って彼女は親しげにヒショウの顔を覗き込む。
メンバーは何事かと困惑しているが、1番困惑しているのはヒショウ自身だ。
覚えがない。
視線で「わからない」と告げながら、彼女を頭から足まで眺めてみた。
冒険者には珍しく化粧をしてアクセサリーをあしらい、筋肉より滑らかさが目立つスタイル。
細くくびれた腰には薔薇が絡んだ髑髏の入れ墨が佇む。
それを見て、思い出した。
「…思い出した。」
ヒショウはそう言うが、別に嬉しそうではなくかと言って嫌そうでもない。
友人にしては親しさはなく挨拶もない。
女性も親しげなのは言葉だけで態度はどこか他人行儀だ。
「お久しぶり、覚えてもらえてたなんてうれしいわ。」
「……。」
返す言葉に困っているヒショウを見て、彼女は笑いながら「相変わらずつれないわね」と呟く。
ハンターは視線を一瞬テーブルを囲む面々に向けたが、ヒショウのギルドメンバーと知りながら挨拶も無しにヒショウと近い距離で話す。
「ねえ、私最近ソロでつまらないのよ、よかったら今日か明日狩りにでも付き合ってくれない?場所はどこでもいいから。」
「生憎だが、もう相方がいる。」
ヒショウが即座に短くそう告げると、彼女は笑顔を削ぎ落として不機嫌そうに歪めた。
「ああ、そうゆうことね。わかった、また会った時退屈してたら付き合うわ。じゃあね」
彼女はそう言ってあっさりと背を向けた。
「……あの方は」
メルフィリアは独り言のように疑問を口にした。
それにヒショウが答えぬうちにマナが不機嫌そうにため息をついた。
「オイコラ、あの女が去り際に私の事に睨んだぞ。変な勘違いさせてんなよ。どーせ元カノだろ、一言弁解しろよ。」
「…別に、だからって手を出してくる程熱の入った女じゃない。」
ヒショウがばつが悪そうにしているのは、今はルナティスという恋人がいるからか、それとも余り人に自慢したくなるような女性ではなかったからか。
「…随分、ヒショウの好みから外れた人だね。」
恋人である自分のことを棚に上げて、意外にもルナティスがあの女性の話題に突っ込んでくる。
表向きはただ仲間の昔の事情を掘り起こして聞き出そうとしている野次馬のような雰囲気だが、下手をしたらヒショウとルナティスの間に何か問題が起きそうな危うさがある。
現在の恋人としては、昔の恋人の存在は気になると同時に不安を煽るものだろう。
「…お互い、本気じゃなかったからな。」
ヒショウは言いにくそうに眉をしかめるが、はぐらかしたりするとルナティスを不安にさせるだろうと事実を告げる。
「でも別に、狩りくらい付き合ってあげればいいんじゃないですか。ヒショウさんが浮気するなんて思ってませんよね、ルナティスさん?」
「浮気しないのは分かってるけど、さっきのあれ、つまりは誘ってたんじゃないの?」
白昼堂々のそんな発言に、一帯の空気が固まった。
どう聞いても普通の会話だったろうになんて解釈してるんだ、と皆が思ったが、ヒショウが否定しないのも気になった。
「ど、どう聞けばそうなるんですか?」
「だってーただの狩り仲間にしては距離が近いし元恋人にしては二人ともよそよそしいし、ヒショウが誘いを遠慮なくばっさり断るし。ていうか相方がいても狩りくらい付き合うでしょ、なのに向こうもあっさり諦めてたから。相方って恋人の代名詞だったんじゃないの?何よりヒショウってあーゆーあから様にフェロモン出してる女の人嫌いでしょ。あと貧乳の方が」
「そろそろ余計だ。」
要らない考察まで持ち出し始めてきたルナティスの頭にヒショウの平手打ちが入る。
「つまりはセフレかよー」
マナのあまりにストレートな言い方に、動揺した。
結構人前での発言に慎みがないのはマナとルナティスの似たところだ。
「……っ……ま、あ…そうなる、か…」
代わりにいい言葉が見つからず、ヒショウはしぶしぶ頷く。
「だよな。腹のあたり見て思い出してたし。」
「……。」
「ヒショウにも、そうゆう時があったんだなー。」
「…若気の至りだ。」
「男なら当然だろ。で、あの女の人のどこがよかったの?」
ルナティスを横目に盗み見ても、その顔に不機嫌さは見つけられない。
純粋に気になっているように見える。
「…どこも」
「……惚気?」
自分の発言は「あの女性の全てが好きだった」と捉えられたらしい。
慌てて首を振って否定した。
「どこも、好きなところがなかったから付き合った。お互い、本気になるつもりはなかったから。」
「ま、ちゃんとそーやって先のこと考えてるのはいいけどな?」
何かいいたげに口を出したマナはそこで言葉を濁した。
元から冷めていて熱くなる間もなかった相手だとしても、ルナティスは面白いはずがない。
ルナティスと腕相撲の姿勢のままでいるレイヴァが、勝負もしていないのにずっと腕を震わせている。
話している最中もルナティスがずっと強く握ってきているから、痛くないように対抗して握り返しているのだろう。
ヒショウはそんなルナティスの内面の怒りに気付かないが、知らなくて正解だ。
『………マナ、僕があの女の人殴りに行ったら止める?』
ルナティスとマナの互い間でしか聞こえない声で、そんな物騒な会話が成されていたとはその場の誰も思わなかった。
『止めて欲しいから聞いてんだろ?』
『まあねー』
勿論、未遂に終わったが
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「ちょっとこっちきて」
日が沈んだ頃、ルナティスが前触れもなくヒショウにそう呼びかけ、外へ連れ出す。
数分歩いて辿りついたのは、簡素な屋敷の脇。
外壁に松明が点々と括り付けられている通りだった。
「何だ、こんな所で」
「見て欲しいのがあるんだ」
そう言ってルナティスが袖の中に隠し持っていた物を掲げる。
マナが知り合いのダンサーから貰ったと言って先刻見せびらかしていた装飾刀だった。
刃の研がれていない刀身はシンプルだが柄には過剰な装飾と絹布があしらわれている。
マナが一目で気に入ったというだけあって近くで見ても見事なものだった。
「………、嫌な気分になったら言ってくれよ。」
ヒショウには全く意味の掴めないようなことを言いながら、ルナティスは刀を掲げる
松明の炎と月明かりが映し出す世界。
刀と彼の横顔が揺らめく。
針金を通したように延びる背筋、刀の刃先で反対の手の平から二の腕迄をゆっくりとなぞり
そして目の前に水平に走らせ、刀を手首と指で回転させながら背を回り、いつの間にか反対の手に収まる。
足を開き、まるでそこにいない敵を切り裂き、威嚇するようにルナティスは刀を振るい、寸分の狂いもないリズムでステップを踏み虚空を睨みつける。
徐々にリズムは速まり、高鳴り、腕、腰、足、刀。全てが煽情的に舞う。
まるで戦場の炎のように激しく舞い、狂乱の音楽が聞こえるようだった。
だがそうかと思えばリズムは治まり水面さえざわめかせないような緩やかで無音のステップと刀の機械的な動き。
舞神の様に凜とした表情が神秘的で、髪や睫毛微かな唇の動き、なにもかもに魅入られる。
リズムが2度、いや3度だったかもしれないが、変調したころに静かに夜を燃やすような舞いはひそかに静まっていった。
それは紛れも無く、見事な舞神のものだった。
「……どう?」
どうと聞かれても
「……凄いな、何とも言えず…綺麗だった。どこでそんな…」
「あそこで」
ルナティスが言葉を濁し、苦笑いする。
それだけで分かってしまった。
そしてヒショウは素直に絶賛してしまったことを後悔した。
「いろいろあって、仕込まれたんだけど、いつも体調不良だったから完全じゃなかったんだよね。…必死、ではあったけど。」
「………。」
「だから万全の状態でのは、ヒショウが初めてだな。…うん、嫌じゃなかったら見て貰いたかったから。」
そう言う笑顔に陰はないのに、悲観的になるのはルナティスに悪いかもしれない。
だがならずにはいられなかった。
閉じ込められ踏みにじられていた、それだけではない。
彼が言葉を濁す場所で純粋に舞いを習ったとは思えない。
傷付いた身体で、見世物にされながら舞う少年の姿が目に浮かぶ。
「……皆の前では見せないのか?」
気の利いた慰めや労りなど思いつかなかった。
「ヒショウに、1番に見て欲しかったから。皆には…今度の宴会でやるかな?自分がこうゆうのやってた、って、この宝刀見るまで忘れてたし。」
「……きっと、皆驚く。」
「だったらいいな。」
余りにも自然に笑うルナティス。
彼は…心から笑っていないのかもしれない。
でも
「今が幸せだから、昔の嫌な思い出だって今に活かせるさ。」
その言葉は事実だろう。
その幸せの片鱗になれるなら。
喜んで自分を彼に捧げよう。
彼の苦痛も受け入れよう。
「……。」
ヒショウは冷静な思考と緩やかな動きで目の前のルナティスを引き寄せ、腕の中に抱きしめた。
彼は突然の事で目を丸くしたが、単純に嬉しいと思ったから何もしなかった。
「…………聞いて、いいか。」
「………。」
肩に顔を埋めた彼から「何を?」とまで聞かれずとも分かった。
話すことは苦ではなかった。
それでまたヒショウがルナティスに引け目を感じるのが目に見えてしまい、迷う。
だが、ただ受け入れ慰めてくれてはいてもヒショウから話に突っ込んでくるのは初めてのこと。
彼なりにいろいろ考え、ルナティスの苦痛の記憶と正面から向き合い歩み寄ろうとした結果だろうと、補足がなくてもわかる。
「…あの部屋から時々、連れ出された。僕を心底気に入った人がいて、特別に。派手な服着せられて。」
「…何処へ連れていかれた。」
「…サロン。身なりのいい人達沢山がいて、奴隷を連れてくる人もいた。」
「…そこで何を。」
ルナティスが、ヒショウの背中に手を回して抱き返す。
彼はまるで催眠術に誘導されるようにポツリポツリと話す。
「さっきの踊りを。」
それにヒショウはまた質問を返して話を引き出していく。
「それだけか。」
そしてルナティスはおとなしく答える。
「………――――。」
それは、壮絶な悪夢。
ヒショウはそれに耐え切れなかった。
日が沈んだ頃、ルナティスが前触れもなくヒショウにそう呼びかけ、外へ連れ出す。
数分歩いて辿りついたのは、簡素な屋敷の脇。
外壁に松明が点々と括り付けられている通りだった。
「何だ、こんな所で」
「見て欲しいのがあるんだ」
そう言ってルナティスが袖の中に隠し持っていた物を掲げる。
マナが知り合いのダンサーから貰ったと言って先刻見せびらかしていた装飾刀だった。
刃の研がれていない刀身はシンプルだが柄には過剰な装飾と絹布があしらわれている。
マナが一目で気に入ったというだけあって近くで見ても見事なものだった。
「………、嫌な気分になったら言ってくれよ。」
ヒショウには全く意味の掴めないようなことを言いながら、ルナティスは刀を掲げる
松明の炎と月明かりが映し出す世界。
刀と彼の横顔が揺らめく。
針金を通したように延びる背筋、刀の刃先で反対の手の平から二の腕迄をゆっくりとなぞり
そして目の前に水平に走らせ、刀を手首と指で回転させながら背を回り、いつの間にか反対の手に収まる。
足を開き、まるでそこにいない敵を切り裂き、威嚇するようにルナティスは刀を振るい、寸分の狂いもないリズムでステップを踏み虚空を睨みつける。
徐々にリズムは速まり、高鳴り、腕、腰、足、刀。全てが煽情的に舞う。
まるで戦場の炎のように激しく舞い、狂乱の音楽が聞こえるようだった。
だがそうかと思えばリズムは治まり水面さえざわめかせないような緩やかで無音のステップと刀の機械的な動き。
舞神の様に凜とした表情が神秘的で、髪や睫毛微かな唇の動き、なにもかもに魅入られる。
リズムが2度、いや3度だったかもしれないが、変調したころに静かに夜を燃やすような舞いはひそかに静まっていった。
それは紛れも無く、見事な舞神のものだった。
「……どう?」
どうと聞かれても
「……凄いな、何とも言えず…綺麗だった。どこでそんな…」
「あそこで」
ルナティスが言葉を濁し、苦笑いする。
それだけで分かってしまった。
そしてヒショウは素直に絶賛してしまったことを後悔した。
「いろいろあって、仕込まれたんだけど、いつも体調不良だったから完全じゃなかったんだよね。…必死、ではあったけど。」
「………。」
「だから万全の状態でのは、ヒショウが初めてだな。…うん、嫌じゃなかったら見て貰いたかったから。」
そう言う笑顔に陰はないのに、悲観的になるのはルナティスに悪いかもしれない。
だがならずにはいられなかった。
閉じ込められ踏みにじられていた、それだけではない。
彼が言葉を濁す場所で純粋に舞いを習ったとは思えない。
傷付いた身体で、見世物にされながら舞う少年の姿が目に浮かぶ。
「……皆の前では見せないのか?」
気の利いた慰めや労りなど思いつかなかった。
「ヒショウに、1番に見て欲しかったから。皆には…今度の宴会でやるかな?自分がこうゆうのやってた、って、この宝刀見るまで忘れてたし。」
「……きっと、皆驚く。」
「だったらいいな。」
余りにも自然に笑うルナティス。
彼は…心から笑っていないのかもしれない。
でも
「今が幸せだから、昔の嫌な思い出だって今に活かせるさ。」
その言葉は事実だろう。
その幸せの片鱗になれるなら。
喜んで自分を彼に捧げよう。
彼の苦痛も受け入れよう。
「……。」
ヒショウは冷静な思考と緩やかな動きで目の前のルナティスを引き寄せ、腕の中に抱きしめた。
彼は突然の事で目を丸くしたが、単純に嬉しいと思ったから何もしなかった。
「…………聞いて、いいか。」
「………。」
肩に顔を埋めた彼から「何を?」とまで聞かれずとも分かった。
話すことは苦ではなかった。
それでまたヒショウがルナティスに引け目を感じるのが目に見えてしまい、迷う。
だが、ただ受け入れ慰めてくれてはいてもヒショウから話に突っ込んでくるのは初めてのこと。
彼なりにいろいろ考え、ルナティスの苦痛の記憶と正面から向き合い歩み寄ろうとした結果だろうと、補足がなくてもわかる。
「…あの部屋から時々、連れ出された。僕を心底気に入った人がいて、特別に。派手な服着せられて。」
「…何処へ連れていかれた。」
「…サロン。身なりのいい人達沢山がいて、奴隷を連れてくる人もいた。」
「…そこで何を。」
ルナティスが、ヒショウの背中に手を回して抱き返す。
彼はまるで催眠術に誘導されるようにポツリポツリと話す。
「さっきの踊りを。」
それにヒショウはまた質問を返して話を引き出していく。
「それだけか。」
そしてルナティスはおとなしく答える。
「………――――。」
それは、壮絶な悪夢。
ヒショウはそれに耐え切れなかった。
「ルナティスさんって、ヒショウさん以外に彼氏いなかったんですか?」
「さりげなく彼氏なんだね、ありがとうセイヤ。僕、一応ノーマルだよ。」
まあ、男と寝ることに抵抗はないのは確か。
ついでに恋人は男だけど。
なんだか人の事情に首を突っ込むのが好きな後輩アコライト君がにこにこしながら聞いてくる。
凄く聞きたい、ってわけではないんだろう、顔がそんな真剣じゃない。
彼には何となく話のきっかけが欲しいくらいのこと。彼の話好きな性格のおかげであまり喋らない人種が多いこのギルドも明るい日常だ。
「ヒショウのことが好きなのは、もう小さい頃からずっとだったからねえ…」
「じゃあ、ずっと一筋だったんですね。」
「いや、何回か彼女はいた。」
「……いたんですかい、ヒショウさんの下りが要りませんよ。」
「それでも心はヒショウ一筋だったと主張するために。」
一応、会話が聞こえる位置にヒショウがいるからね。
そちらを見ると「はいはい」なんていい加減な反応しながら武器を磨いている。
「まあ、一応、男の子ですから僕も…片思いの寂しさを紛らわす為にね…」
何だか言い訳がましいな、なんて思いながら歯切れが悪くなる。
それを言えば、ヒショウにだって彼女とまではいかなくても女の人との付き合いはあったから後ろめたくはない筈なんだけど。
「あ、一時期マナさんと付き合ってませんでしたっけ。」
「いや、あれはヒショウを騙す為に」
あ、なんか思い出してヒショウが苛々してる…
武器を扱う手が雑になっているのが見る人が見れば気付くだろう。
まあ、彼にはいろいろ嫌な重いさせたしな…嘘の既成事実で僕が無理矢理抱いたわけだし。
でも初めてヒショウが僕に見捨てられるのを懸念して泣いたっけ。
あれはたまらなかった。
懐かしいなあ…。
今思えばかなり酷いことしてるけど、あの時はいろいろ切羽詰まってたから…………
「でも嘘でよかったですよね。もし本当にマナさんとルナティスさんがくっついてたら近親相姦だし。」
可愛い顔してさらりとえげつないこというなセイヤ!
あ。
「………。」
僕は何だか顔面蒼白になりながら、マナを見た。
彼女は目を丸くして、けれどすぐに僕の視線の意味に気付いたらしい。
「あー………遅かったな。」
マナはにやりと悪戯っぽく笑っただけだった。
お、遅かったなとかそうゆう問題じゃないだろ!?
「ま、まさか…恋人のフリに乗じてやっちゃったとか…」
「……フリに乗じてというか…もっと昔に……い、いや!でも多分酔った勢いで裸で寝ただけで多分やってはいない!泥酔すぎてそんなこと出来る状態じゃ」
「私あの後超フトモモ痛かったんだけどー、股とかマジ痛かったー。」
「うそだああああああああ!!!!」
笑いながら爆弾を落とすマナを、無意味理不尽にシバきたくなった。
別に、道徳に反して心傷付くような神経してないけどさ、思いもしなかった禁忌ってやつに酷くショックを受ける。
「………近親相姦はどーでもいいが、マナさんに手を出してた事実は見逃し難いぞルナティス、土下座しながら切腹しろ。」
「土下座で腹切りって難しいし!いや、しないし!っていうかどーでもいいのはそっち!?」
「まーまー、シェイディ、これでも一応私の弟なんだ、大目に見てくれたまえ。」
「マナさんもマナさんだ!俺がいたのにルナティスと…っ」
「いや、お前と付き合う前だからな?」
僕はうちひしがれながら、ヒショウの方を見てみた。
一瞬、こちらを横目に見ていた彼と目が合う、が
目を反らされた。
Σ(;゜Д゜;;)
「ヒショウ…!無意識だったんだ!不可抗力だったんだ!知らなかったんだ!見捨てないでー!!」
「いや、別に…」
ヒショウはマナの方をちらっと見てから、溜め息をついた。
『やっぱりルナティスもあーゆうスタイルのいい女がいいんだろうな、乳とか』とか言っているような気がして思わず慌てる。
「確かにマナみたいにボリュームあるスタイルはタイプだけどヒショウに比べたらスッポンだから!ヒショウみたいに優しくて綺麗で細くて感度いいのとかさいぶほっ」
僕の褒めちぎりは顎への衝撃で切れた。
足を組み換え様に蹴り上げられたらしい。
……いや、怒られるの分かってたけどね、分かって欲しかったから。
ぐるりと視界は回転して、僕の意識も暗転していった。
「…大体、嘘だろう。」
ヒショウの呟きに、気絶したルナティスを介抱していたセイヤが小首を傾げる。
「マナがお前にやられた、って話。」
「え?」
ヒショウははっきりとそう言いきるが、その根拠はどこに?
当人でさえ否定しきれなかった事実を何故ヒショウが?とセイヤは怪訝な顔で訴え続けている。
「昔、皆で盛大に飲んだ時のことだろ。お前とマナがあまりに酒臭かったから二人まとめて部屋に押し込んだ。で、そのあと心配になって部屋覗いたら二人して吐いてたから、俺が汚れた服脱がして二人をベッドに押し込んだ。」
ルナティスにとってはありがたい事実を、当のルナティスは気絶して聞き逃している。
「なんだ、そうゆうことですか。」
「そうゆことなんだな」
「お前が言うな、マナ」
「でも、だからって裸にしなくてもよかったんじゃ?」
「裸にはしてない、ルナティスは下は履いてたしマナには肌着を着せたぞ?」
「………え、じゃあ…?」
何故ルナティスは二人とも裸だったと記憶していたのか。
その理由に悩んだのは数秒だった。
その場にいた者の視線が、マナに集まる。
「てへっ」
マナは自分の頭を拳でコツンッと叩いて舌を出した。
美人だけあってそのかわいらしい動作は不快なものでは決してなかったが、皆を呆れさせた。
そんなことは露知らず、ヒショウの足元に倒れるルナティスは夢の中で神に祈りを捧げているようだ。
「さりげなく彼氏なんだね、ありがとうセイヤ。僕、一応ノーマルだよ。」
まあ、男と寝ることに抵抗はないのは確か。
ついでに恋人は男だけど。
なんだか人の事情に首を突っ込むのが好きな後輩アコライト君がにこにこしながら聞いてくる。
凄く聞きたい、ってわけではないんだろう、顔がそんな真剣じゃない。
彼には何となく話のきっかけが欲しいくらいのこと。彼の話好きな性格のおかげであまり喋らない人種が多いこのギルドも明るい日常だ。
「ヒショウのことが好きなのは、もう小さい頃からずっとだったからねえ…」
「じゃあ、ずっと一筋だったんですね。」
「いや、何回か彼女はいた。」
「……いたんですかい、ヒショウさんの下りが要りませんよ。」
「それでも心はヒショウ一筋だったと主張するために。」
一応、会話が聞こえる位置にヒショウがいるからね。
そちらを見ると「はいはい」なんていい加減な反応しながら武器を磨いている。
「まあ、一応、男の子ですから僕も…片思いの寂しさを紛らわす為にね…」
何だか言い訳がましいな、なんて思いながら歯切れが悪くなる。
それを言えば、ヒショウにだって彼女とまではいかなくても女の人との付き合いはあったから後ろめたくはない筈なんだけど。
「あ、一時期マナさんと付き合ってませんでしたっけ。」
「いや、あれはヒショウを騙す為に」
あ、なんか思い出してヒショウが苛々してる…
武器を扱う手が雑になっているのが見る人が見れば気付くだろう。
まあ、彼にはいろいろ嫌な重いさせたしな…嘘の既成事実で僕が無理矢理抱いたわけだし。
でも初めてヒショウが僕に見捨てられるのを懸念して泣いたっけ。
あれはたまらなかった。
懐かしいなあ…。
今思えばかなり酷いことしてるけど、あの時はいろいろ切羽詰まってたから…………
「でも嘘でよかったですよね。もし本当にマナさんとルナティスさんがくっついてたら近親相姦だし。」
可愛い顔してさらりとえげつないこというなセイヤ!
あ。
「………。」
僕は何だか顔面蒼白になりながら、マナを見た。
彼女は目を丸くして、けれどすぐに僕の視線の意味に気付いたらしい。
「あー………遅かったな。」
マナはにやりと悪戯っぽく笑っただけだった。
お、遅かったなとかそうゆう問題じゃないだろ!?
「ま、まさか…恋人のフリに乗じてやっちゃったとか…」
「……フリに乗じてというか…もっと昔に……い、いや!でも多分酔った勢いで裸で寝ただけで多分やってはいない!泥酔すぎてそんなこと出来る状態じゃ」
「私あの後超フトモモ痛かったんだけどー、股とかマジ痛かったー。」
「うそだああああああああ!!!!」
笑いながら爆弾を落とすマナを、無意味理不尽にシバきたくなった。
別に、道徳に反して心傷付くような神経してないけどさ、思いもしなかった禁忌ってやつに酷くショックを受ける。
「………近親相姦はどーでもいいが、マナさんに手を出してた事実は見逃し難いぞルナティス、土下座しながら切腹しろ。」
「土下座で腹切りって難しいし!いや、しないし!っていうかどーでもいいのはそっち!?」
「まーまー、シェイディ、これでも一応私の弟なんだ、大目に見てくれたまえ。」
「マナさんもマナさんだ!俺がいたのにルナティスと…っ」
「いや、お前と付き合う前だからな?」
僕はうちひしがれながら、ヒショウの方を見てみた。
一瞬、こちらを横目に見ていた彼と目が合う、が
目を反らされた。
Σ(;゜Д゜;;)
「ヒショウ…!無意識だったんだ!不可抗力だったんだ!知らなかったんだ!見捨てないでー!!」
「いや、別に…」
ヒショウはマナの方をちらっと見てから、溜め息をついた。
『やっぱりルナティスもあーゆうスタイルのいい女がいいんだろうな、乳とか』とか言っているような気がして思わず慌てる。
「確かにマナみたいにボリュームあるスタイルはタイプだけどヒショウに比べたらスッポンだから!ヒショウみたいに優しくて綺麗で細くて感度いいのとかさいぶほっ」
僕の褒めちぎりは顎への衝撃で切れた。
足を組み換え様に蹴り上げられたらしい。
……いや、怒られるの分かってたけどね、分かって欲しかったから。
ぐるりと視界は回転して、僕の意識も暗転していった。
「…大体、嘘だろう。」
ヒショウの呟きに、気絶したルナティスを介抱していたセイヤが小首を傾げる。
「マナがお前にやられた、って話。」
「え?」
ヒショウははっきりとそう言いきるが、その根拠はどこに?
当人でさえ否定しきれなかった事実を何故ヒショウが?とセイヤは怪訝な顔で訴え続けている。
「昔、皆で盛大に飲んだ時のことだろ。お前とマナがあまりに酒臭かったから二人まとめて部屋に押し込んだ。で、そのあと心配になって部屋覗いたら二人して吐いてたから、俺が汚れた服脱がして二人をベッドに押し込んだ。」
ルナティスにとってはありがたい事実を、当のルナティスは気絶して聞き逃している。
「なんだ、そうゆうことですか。」
「そうゆことなんだな」
「お前が言うな、マナ」
「でも、だからって裸にしなくてもよかったんじゃ?」
「裸にはしてない、ルナティスは下は履いてたしマナには肌着を着せたぞ?」
「………え、じゃあ…?」
何故ルナティスは二人とも裸だったと記憶していたのか。
その理由に悩んだのは数秒だった。
その場にいた者の視線が、マナに集まる。
「てへっ」
マナは自分の頭を拳でコツンッと叩いて舌を出した。
美人だけあってそのかわいらしい動作は不快なものでは決してなかったが、皆を呆れさせた。
そんなことは露知らず、ヒショウの足元に倒れるルナティスは夢の中で神に祈りを捧げているようだ。
泣きたくなるような虚しさと背徳感。
「…ごめん。」
まだ上がった息で呟き、茫然自失する。
見下ろした手には白い汚れ。
涙は出ないが、それを見る内に自分に腹が立ってくる。
かつては彼を汚したくないからと自分の身体を捧げたのに、彼を救い出した今は自分だけのものにした気になって…
けれど彼の心は自分の元にはない現実に、焦燥する。
渇く心は妄想でごまかすしかなかった。
「…最低」
自嘲して手ぬぐいに手を押し付ける。
「最低っていうのは多分相手の気持ちを考えない奴のことよ?」
「!!!??」
不意にすぐ隣から聞き慣れた声がして、心臓が跳ね上がった。
そして慌てて逃げるように下がってズボンを引き上げる。
「慌ててるとチャックに挟むわよ?」
「ちょっ、ヒショウいつからっ」「何だか最近とっても元気がないルナが気になって、待ち伏せてたの。」
「つまり、始めからいたのか」
反省の色無く、思い人の体は別人の意思に動かされて笑う。
さっきまで頭の中で散々に抱いた身体、でも中は頭の中で抱いていた人とは別人なのだ。
開き直っていつも通りでいることにした。
「セクハラです。覗きは犯罪です。」
「ごめんっ」
「…見なかった事にして。」
苦笑いしてそう頼むと、ヒショウは少し悲しそうな顔をする。
「ルナ…私ね、ヒショウ…いえ、アスカがやっぱり嫌いよ。」
「……。」
「ルナにあんなに大事にされているのに酷いわ。重いもの抱えて、私なんていう謎な因子までいて、大変なのは分かるけど…ルナを苦しめ過ぎよ、ルナの気持ちに気付いてもいいものでしょうに。」
「僕が勝手に気持ちを押し付けてるだけだ。気付かれてアスカに負担を増やすのも、困るな。」
だから、今のままでいい。
そう笑うルナティスにヒショウが抱き着く。
首に腕を回し、優しく抱きしめる。
「ん?」
ルナティスはわけも分からずその肩を労うように叩いて返す。
けれどそれへの反応は、それでは不満だとばかりに押し倒した。
そして彼のアコライトの法衣に手をかけてくる。
「ちょっ、ヒショウ、待った待ったっ!セクハラ反対っ!」
「本気よ」
性急な手つきを一旦止めて、半ば睨むようにルナティスを見下ろす。
「ルナ、私を抱いていいよ」
ヒショウが邪魔そうに髪をかき上げて、真っ直ぐルナティスを見つめる。
「…な、何言って…」
「私はアスカの心はあげられない、けど身体だけなら」
それは究極の誘惑だった。
当人ではないけれど、同じ身体を当人には知られずに手に入れられる。
きっとアスカに負担はあるだろうが、二人の関係は崩さずにいられる。
ルナティスが知らん顔をしていればその事実はしられない。
一度だけなら…
指を延ばし、白い喉に触れる。
自ら衿の合わせを開いている彼の手を掴み、引き寄せて身体の位置を入れ換える。
「…っ」
身体を重ねる。
顔を掌で包み込んで、唇を重ねる。
その直前で、ルナティスは動きを止めた。
ヒショウはただ優しげに微笑んでいる。
“彼女”は抱いて欲しいわけじゃない。
“アスカの身体”をルナティスに捧げてやりたいだけ。
結局はどこまでもルナティスの独りよがり。
「ルナ?」
涙が溢れた。
情けない。情けなくて、寂しい。ヒショウに触れていた指先から血の気が失せて熱は四散し、抱く気も失せる。
冷静になれば自分に再び嫌悪した。
「ごめん。」
アスカにも、彼女にも。
謝って、ベッドから離れる。
独りだ。
孤独で死んでしまいそう。
泣き崩れてしまいそう。
身体が、冷たい。
愛しい人ではない誰かの体温がほしかった。
「ぎゃああああああっ!!!!???」
そして隣の同居人のベッドに潜り込み、翌朝にはシェイディの悲鳴がして、彼に殴り起こされた。
「…ごめん。」
まだ上がった息で呟き、茫然自失する。
見下ろした手には白い汚れ。
涙は出ないが、それを見る内に自分に腹が立ってくる。
かつては彼を汚したくないからと自分の身体を捧げたのに、彼を救い出した今は自分だけのものにした気になって…
けれど彼の心は自分の元にはない現実に、焦燥する。
渇く心は妄想でごまかすしかなかった。
「…最低」
自嘲して手ぬぐいに手を押し付ける。
「最低っていうのは多分相手の気持ちを考えない奴のことよ?」
「!!!??」
不意にすぐ隣から聞き慣れた声がして、心臓が跳ね上がった。
そして慌てて逃げるように下がってズボンを引き上げる。
「慌ててるとチャックに挟むわよ?」
「ちょっ、ヒショウいつからっ」「何だか最近とっても元気がないルナが気になって、待ち伏せてたの。」
「つまり、始めからいたのか」
反省の色無く、思い人の体は別人の意思に動かされて笑う。
さっきまで頭の中で散々に抱いた身体、でも中は頭の中で抱いていた人とは別人なのだ。
開き直っていつも通りでいることにした。
「セクハラです。覗きは犯罪です。」
「ごめんっ」
「…見なかった事にして。」
苦笑いしてそう頼むと、ヒショウは少し悲しそうな顔をする。
「ルナ…私ね、ヒショウ…いえ、アスカがやっぱり嫌いよ。」
「……。」
「ルナにあんなに大事にされているのに酷いわ。重いもの抱えて、私なんていう謎な因子までいて、大変なのは分かるけど…ルナを苦しめ過ぎよ、ルナの気持ちに気付いてもいいものでしょうに。」
「僕が勝手に気持ちを押し付けてるだけだ。気付かれてアスカに負担を増やすのも、困るな。」
だから、今のままでいい。
そう笑うルナティスにヒショウが抱き着く。
首に腕を回し、優しく抱きしめる。
「ん?」
ルナティスはわけも分からずその肩を労うように叩いて返す。
けれどそれへの反応は、それでは不満だとばかりに押し倒した。
そして彼のアコライトの法衣に手をかけてくる。
「ちょっ、ヒショウ、待った待ったっ!セクハラ反対っ!」
「本気よ」
性急な手つきを一旦止めて、半ば睨むようにルナティスを見下ろす。
「ルナ、私を抱いていいよ」
ヒショウが邪魔そうに髪をかき上げて、真っ直ぐルナティスを見つめる。
「…な、何言って…」
「私はアスカの心はあげられない、けど身体だけなら」
それは究極の誘惑だった。
当人ではないけれど、同じ身体を当人には知られずに手に入れられる。
きっとアスカに負担はあるだろうが、二人の関係は崩さずにいられる。
ルナティスが知らん顔をしていればその事実はしられない。
一度だけなら…
指を延ばし、白い喉に触れる。
自ら衿の合わせを開いている彼の手を掴み、引き寄せて身体の位置を入れ換える。
「…っ」
身体を重ねる。
顔を掌で包み込んで、唇を重ねる。
その直前で、ルナティスは動きを止めた。
ヒショウはただ優しげに微笑んでいる。
“彼女”は抱いて欲しいわけじゃない。
“アスカの身体”をルナティスに捧げてやりたいだけ。
結局はどこまでもルナティスの独りよがり。
「ルナ?」
涙が溢れた。
情けない。情けなくて、寂しい。ヒショウに触れていた指先から血の気が失せて熱は四散し、抱く気も失せる。
冷静になれば自分に再び嫌悪した。
「ごめん。」
アスカにも、彼女にも。
謝って、ベッドから離れる。
独りだ。
孤独で死んでしまいそう。
泣き崩れてしまいそう。
身体が、冷たい。
愛しい人ではない誰かの体温がほしかった。
「ぎゃああああああっ!!!!???」
そして隣の同居人のベッドに潜り込み、翌朝にはシェイディの悲鳴がして、彼に殴り起こされた。
今日は何処にも行かないことにした。
俺が部屋出なければ、ルナティスもたいてい部屋を出ない。
俺が少し音や言葉が欲しい時はルナティスがくれる。
本を読んでいる時は彼も読む。
「本、取って」
「どれがいい」
「んー…ゾルーク、ハーン、アシェラルド以外」
同じ部屋、隣で読書していても案外彼とは本の趣味が合わない。
心理学、哲学、叙情詩、その辺り、純文学的なものを彼はあまり読まない。
好むのは随筆、歴史書、論文、小説の類だ。
「昨日、詩集を買ったが。」
「詩はいいよ。」
「嫌いなのか。」
「嫌いじゃないよ、詩って詩人の人生の大事な所の切り貼りだったりするし、共感反感にしろあれこれ考えさせられるから面白い。」
彼が前半口にしたのは、有名な詩人の明言だ。
やっぱり、結構好きなんじゃないか。
「ならなんで読まないんだ。」
「考えさせられて、自分の在り方を疑問に思うから。」
思わず、黙り込んでしまった。
彼を凝視してしまう。
ルナティスは微笑んで、棚にある本から作家を名指しして小説を指名した。
「僕は、何も考えずに僕でいたいんだよ。
結局僕であることに変わりはないのに、名著書である程考えさせられるから。」
“何も考えずに居るようで
実は彼は誰よりも考えている。
詩を読まないのは
彼自身が既に詩的であるからじゃないか。”
俺は低知能な頭でそんな事を思った。
ルナティスは小説を読みながら、俺と肩が触れ合うところにいる。
本を読みながら、思考には常に俺を置いて。
決して他人が綴った文章には、他人が本に込めた思いには飲み込まれないのだ。
____________
ゲーテの詩を読んでいたら何となく
詩的な流れにしたくなった。
俺が部屋出なければ、ルナティスもたいてい部屋を出ない。
俺が少し音や言葉が欲しい時はルナティスがくれる。
本を読んでいる時は彼も読む。
「本、取って」
「どれがいい」
「んー…ゾルーク、ハーン、アシェラルド以外」
同じ部屋、隣で読書していても案外彼とは本の趣味が合わない。
心理学、哲学、叙情詩、その辺り、純文学的なものを彼はあまり読まない。
好むのは随筆、歴史書、論文、小説の類だ。
「昨日、詩集を買ったが。」
「詩はいいよ。」
「嫌いなのか。」
「嫌いじゃないよ、詩って詩人の人生の大事な所の切り貼りだったりするし、共感反感にしろあれこれ考えさせられるから面白い。」
彼が前半口にしたのは、有名な詩人の明言だ。
やっぱり、結構好きなんじゃないか。
「ならなんで読まないんだ。」
「考えさせられて、自分の在り方を疑問に思うから。」
思わず、黙り込んでしまった。
彼を凝視してしまう。
ルナティスは微笑んで、棚にある本から作家を名指しして小説を指名した。
「僕は、何も考えずに僕でいたいんだよ。
結局僕であることに変わりはないのに、名著書である程考えさせられるから。」
“何も考えずに居るようで
実は彼は誰よりも考えている。
詩を読まないのは
彼自身が既に詩的であるからじゃないか。”
俺は低知能な頭でそんな事を思った。
ルナティスは小説を読みながら、俺と肩が触れ合うところにいる。
本を読みながら、思考には常に俺を置いて。
決して他人が綴った文章には、他人が本に込めた思いには飲み込まれないのだ。
____________
ゲーテの詩を読んでいたら何となく
詩的な流れにしたくなった。
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