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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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外は雨。
彼は窓際で水色の紙を見ていた。

「手紙ですか?」
「ああ。水色の髪の可愛い子から。」
「女の子ですか?」
「ええ。」

彼はいつもにこにこしていて、丁寧な物腰で、感情がないと思う。
司祭であるくせに彼の言葉に神の愛はないと思う。
先輩に対して罰当たりなことだが、思うのだから仕方ない。

「…ラブレターですかね?」

ずっと読んでるくせに、その内容が理解できないとばかりに司祭は首をかしげる。
雨の湿気のせいか、いつもより艶の鈍い銀髪が肩から落ちた。

「でしょうよ。」
「でも、付き合ってくださいとかいう言葉は無いんですよ。」
「思いを告げるだけでも立派なラブレターでしょ。」
「…無欲ですねえ、可愛い子だ。」

まるで恋人から貰った手紙のように、それにキスをして丁寧にたたみ直す。

いつだったかこの司祭、男が好きだと自分で言っていた気がする。



「コーヒー、飲みますか。」
「ああ、ありがとう。」
「ブラック、好きですか?」
「好きですよ。」

この間は自分はものすごい甘党だと言っていた気がする。
でも、差し出したコーヒーをとてもおいしそうに飲んだ。

机の上に本があった。
昨日読んでいた小説とは違う、哲学の書。
昨日、その本について問うたら、笑いながら小説の登場人物やストーリーについて子供のように無邪気に語って「何度読んでも面白い」と言っていた。

あと、部屋の中には必ず何かしらの花が生けてある。
昨日は確か小さい薔薇だった。その前は蘭。デージーなんて日もあっただろうか。
今日は彼岸花。

「彼岸花…。」
「ええ、好きなんです。」

前の花の時と全く同じことを言う。



「司祭」
「はい。」
「司祭に嫌いなものってありますか?」
「たくさんありますよ。」
「何ですか?」
「何でしょうね。」

はぐらかされた。


彼が何かを嫌いだと言ったところを聞いたことが無い。


昔はただ「何でも好きになれる、いい人なんだろう」と思った。
けれど最近おかしいと思い始めた。
異様なまでに嫌いなものがないのである疑惑が浮かんだ。

本当は、好きなものこそ彼にはないんじゃないか。

――司祭に嫌いなものってありますか?
――たくさんありますよ。

好きなものも、たくさんあるという。





おそらく、好きなもの=嫌いなもの、だ。

「司祭」
「ん?」
「無趣味ですね。」
「?」

彼はきょとん、として



でも、肯定するようにまたにっこりと笑った。











しばらくして、彼は仕事に飽きたらしい。
晴れた青空が大好きだと言っていた彼は
大雨が大好きだからと言って
傘もささずに教会を飛び出した。

そして自分はというと
彼を追いかけて傘を1つ余計に持って雨の中をさ迷い歩いている。
雨の中、傘もささずに歩く銀長髪の司祭なんてのは目立つらしく、道行く人に聞けばすぐに分かった。


そして辿り着いたのは、大通りの端、少し人足の少ないスペースで
あの司祭は知らない青年に抱きついていた。
白い髪に白い肌にどこか物憂げで繊細そうな青年、けれど服はアサシン装束。
どこかで同僚が見たらお叱りを受けるだろうに、と他人事のように思った。

そして人目も憚らず、髪を撫でて頬や額にキスをしている。
明らかに他人や友人のスキンシップではない。
そして何より


初めて、あの司祭の本当の笑顔を見た気がする。
もう付き合いが長いから分かる、あの青年こそがあの司祭の“本当に好きなもの”だ。


その時何故か、自分はそこから逃げ出した。
優越感をぶち壊された。

優越感?自分は何に優越していたのだろう。
あの司祭は自分に好きだとは言ってくれなかった。
だって、自分から聞いていないから。

怖くて、聞いていないから。
笑いながら「好きですよ」と言うに決まっているんだ。
嘘ばかり言うその唇で。


この感情は、嫉妬だろうか。
どうやら彼とずっと一緒にいて(といっても職場だけだが)
ずっと彼と話していて(すべて嘘だろうが)
彼と言う人間を理解した気でいた。(嘘つきだということだけだが)

彼は何も好きにならない、つまりは
僕より上もいないのだと安心していたんだ。








「司祭。」
「はい。」

今日は晴れ、また彼の好きな天気。
手元には好きなレモンティーを置いて、仕事をするふりをしてはその大半を好きな論文を読んで時間を潰している。

「前に貴方は無趣味だって言ったけど、訂正します。」
「はあ。」
「単に、1つのことに気が向くと、他はどーでもよくなるんですね。」

そう言うと、彼はしばらく無表情になった。
勘に触ることを、言っただろうか。



不意に彼は立ち上がって、こちらに近づいてくる。
目の前に立って、顔を近づけてくる。
そして浮かべた笑みは…

いつもの嘘と、あのときの本当とは少し違った。
なんだ、この悪女みたいな顔は。


「正解。」
そう言って
下唇の端だけにキスをされる。

「!!!?!!?!?!?」

おもわず変な悲鳴をあげそうになって、自分はバックステップした。
いや、自分は聖職者であってアサシンのスキルなど使えるわけではないが。

「君こそ、僕の何にも興味ないのかと思いきや、いろいろ見てたんですね。」

いつもの、どこか謎めいた司祭とは違って、普通にいたずらっ子な青年になっている。
彼は笑いながら自分の肩をぽんぽんとたたいてくる。
その反応は







素直に、うれしかった。










そして後日、彼は気に入った相手には過剰なセクハラをしてくるセクハラ上司だということを知った。
知りたくもなかった。
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