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*小説を携帯などからUPするスペースです。(かなり自分用です。)   *小話からプチ長編や、本編もちょくちょく更新すると思われます。   *かなりぶつ切りです。   *携帯からの更新故にあまり整理はできません(笑)   *携帯にも対応しています。   *コメントでの感想なども歓迎です。
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「………失礼する。」
「まてまてまてまて!!!!!!!!」

久しぶりに見つけて軟派してきた特上の美人は、我が家に足を踏み入れるなりさっさと踵を返した。

場所はモロク。
ごろつきや安っぽい娼婦が徘徊する通りを過ぎて我が家はある。
モロクのこんなスラムの中では珍しくしっかりした家だ。
そんなに金に困ってもいないのでコンクリート打ちっぱなしの家だが中はしっかりと外界の熱を遮断して冷房が効いてる。

個人の趣味で、オペラのポスターや魔物の骨や牙を装飾して壁に飾ってある。
照明も知り合いのジャンク屋と戯れに作ったこじんまりとして少しばかり明るいシャンデリア。
飾りっ気がない殺伐とした家ではない、むしろ妖しいムードが楽しめる我が家だと胸を張れる。

が、それも一週間前の話。
少し忙しくモロクを離れるのに、家の中のものを引っ掻き回して旅仕度をしたまま、つまりは散らかっていて、自慢のインテリアもそれを際立たせるただのジャンクにしか見えない。

こう見ると、たしかに来て早々踵を返したくなる気持ちは分かる。
しかも冷房を消していた為、室内はまるで釜戸だ。


冷房をつけて床に散乱したものをまず片付ければ、客人は気を取り直してソファに腰掛けてくれた。

だが



「……はたきと雑巾を貸せ。」
「は?」

プラチナブロンドの美人は縁無し眼鏡の奥で据わった目をこちらに向けてきた。

「こんなかび臭くてそこらに埃や害虫が潜む家に一分もいられるものか。掃除用具を一式出せ。無いのなら水と今お前が着てるアンダーでもよこせ。」




夏の終わり頃。
何故か突然の年末大掃除が始まった。







まるで家政婦がするように手際よく片付けが進む。
こちらの素性は知らないだろうが、あまり一般人には見せられない書類があちこちに散乱していて、そこを掃除させるのは気が引けたのだが、何しろあまりの早さ。
止める間もなければ、彼がその書類達を盗み見る間もない。

積もった埃やこびりついたかびや汚れを親の敵のように取り除いていく。

「お疲れさん」

いつも麦酒用に冷やしていたグラスに茶を入れて差し出す。
綺麗好きのお姫様はそのグラスまで目を光らせてチェックしだした。

幸い、そこは合格を貰えたらしく、冷茶はいい音をたてて彼の体の中に落ちていった。


「全く、モロクというだけで砂と熱がやっかいだと言うのに、よくもこんな風土を無視した内装で暮らす気になれるものだ。」
「案外、住めば都だぜ。治安の悪さのおかげで退屈しなくて済む。」
「………。」

俺の発言を不快に感じた…というわけではないらしい。
口には出さないが、共感しているようにも感じた。
この男も対外分からない…まあ、それはお互い様か。

「アンタ、殴りウィザードか?」「下品な言い方をするな。魔法以外での戦いも得手とはしている。」
「だろうな。」

筋肉のつきかたがただのウィザードとは違う、かと言って訓練してできた均等で無駄のある付き方でもない。
生まれながらにそうあるべくして、そして戦いの中で成長してきたような体。

「…鳴っているぞ。」
「あ?」

思わずじっくりと観察をしていて、電話のベルが鳴ってるのに気付かなかった。
冒険者の仲間からなら電話なんぞ使わなくてもWISで済む。
電話の相手は赤の他人か、仕事の仲介人だ。

今はそれより大事な用がある。
出たくない。

「…今は仕事する気分じゃない。」
「仕事?」
「この辺あたりのゴロツキ掃除だろ。」
「………。」

水を溜めたバケツの中に雑巾ごと手を漬けたまま、彼は何か考え込んでいた。



「行ってこい。」
「は?」

まるで主人のような物言い。
やってることは掃除でまるで小間使いなのに。

「生憎、今はそれよりせっかく成功した軟派だ。
アンタをじっくり口説きたいんだが?」
「軟派されたつもりも口説かれたつもりもないが。」

雑巾を絞り、雫がバケツの中で撥ねて涼しげな音をたてている。

「アンタがぼんやりしてる横で掃除するのも癪だ。どこか行っていてくれ。」
何をしに来たんだあんたは?掃除屋か?

「約束は守る。」
「………。」
うっかり「約束って何だ」と聞きそうになった。
一応彼は俺に手料理をご馳走してくれることになってる。
ここで馬鹿なことを聞いたら「何をしたくてここまで連れて来たんだ」とお叱りをうけそうだ。

「オッケー、じゃあ条件がある。」
「なんだ。」
「行ってらっしゃいと、お帰りなさい」


もう、俺の家で、言われたい人から聞くことなんてないと思っていた、その言葉を。




「行ってこい。」

どこか投げやりではあるけれど
十分今の俺の心には響いた。

心が篭ってない分は、その唇から
いってらっしゃいのキスということで無理矢理貰い受ける。

「行ってきます」


それに帰ってくる言葉はなかったが
立ち尽くした彼の姿。
立ち尽くしたままでもいいから、戻ってくる時にそこにいてくれればいい。


帰ってきたら温かい料理に、飲みそびれて年代物になりかけてるワインを並べて
彼から「お帰りなさい」の言葉を貰うんだ。


心が篭ってなかったら、またその唇から半分支払って貰えばいい。
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